これまでマウスの急性心筋梗塞モデルにDipeptidyl peptidase-4 (DPP-4) 阻害薬を投与することで血糖降下作用とは関係なく心不全が改善することを明らかにしてきた。DPP-4阻害薬による心臓保護作用は圧負荷心不全モデルマウスでも認められた。また、心不全モデルマウスにおいて急性期にDPP-4の血中濃度が上昇することも確認した。これらの結果から、心臓保護作用を有する生理活性物質(DPP-4基質)がDPP-4により分解されることで心不全が発症・進展する、という可能性を考えた。本研究では、心不全マウスの心臓を用いて次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を行い、発現変動遺伝子群からDPP-4の基質を網羅的に解析し、その中から心臓保護作用を有する生理活性物質を同定することを目的とした。そこでまず、マウスを用いて急性心筋梗塞モデルおよび圧負荷モデルを作製し、心不全モデルとしての再現性を確認した。作製した心不全モデルは、心エコー検査による心機能解析、病理学的解析、遺伝子発現解析などから実際に心不全が発症していることを確認した。心不全モデルマウスを安定して作製し、RNA-seq解析を行うにあたって必要な心臓サンプルを準備することに十分な時間を当てた。また、近年注目を集めている拡張不全マウスも作製できるようになったため、このマウスの心臓も実験に用いることとし同時に準備を進めた。また、心不全モデルマウスにおいて、DPP-4阻害薬が心臓線維化を抑制することを認めたため、その機序をin vitroの実験系を用いて調べた。DPP-4阻害薬は、DPP-4の基質であるGLP-1の分解・不活化を抑制し血中濃度を増加させることで、cAMP、Epac1を介して心臓線維化を抑制している可能性が示唆された。
|