研究課題/領域番号 |
18K08028
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
河原崎 和歌子 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (50424594)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 加齢 / 食塩感受性 / 高血圧 / Klotho |
研究実績の概要 |
高齢化を迎え、高齢者の病態を考慮した治療法が求められている。高血圧は加齢とともに増加する一方、加齢に伴う高血圧は、食塩をほぼ摂取しない文化においては認められないことから、食塩感受性の亢進が要因として考えられたが、その発症機序は未解明であった。申請者は加齢に伴い減少する血中の抗加齢因子Klothoが高血圧発症の原因ではないかと考え、実験を進めた。若年マウスに比べて血中Klothoが有意に低下している高齢マウスに高食塩食を摂取させると、血圧が上昇し食塩感受性高血圧を呈したが、Klotho補充により抑制された。また、Klotho遺伝子発現が半減しているKlothoヘテロ欠損マウスでは、既に若年期において食塩感受性高血圧がみられ、Klotho補充により正常化した。この機序として、血中Klothoが減少したマウスでは、食塩摂取時に血管のWnt5a-RhoA経路が活性化して血管収縮能が亢進し、高血圧を惹起することを明らかにし、Wnt阻害薬やRhoキナーゼ阻害薬投与が食塩感受性高血圧の発症を抑制することを示した。血圧調節には血管性(血管収縮)と腎性(腎臓ナトリウム排泄)の2つの要素が関わり、特に腎臓が中心的な役割を担うと考えられている。腎血流は腎臓からのナトリウム排泄の調節に関わり、食塩感受性高血圧の発症に重要であるため調べたところ、高齢マウスや若年KlothoヘテロKOマウスでは腎血流低下が高食塩投与で惹起され、血圧が上昇したが、Klotho補充により、食塩摂取時の血圧上昇や腎血流量の低下反応は消失した。これらの結果により、Klothoの減少が原因で食塩負荷時に腎血流が低下し、食塩感受性高血圧を生じることが示された。これまでの成果は、加齢性高血圧の発症機序を初めて解明し、高齢者高血圧の新規治療法を提案するものとして、論文化した(J Clin Invest in press)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予備実験が功を奏し、血中Klotho減少モデルマウスを確立したうえで、順調に計画をすすめることができた。また、動物実験ではKlotho減少下で食塩を摂取すると、血管におけるWnt5a発現が上昇し、Wnt5a-RhoA経路の活性化を来して血管収縮能が増強することを示したが、さらに平滑筋細胞を用いた細胞実験で検証することができ、これが実験をまとめる大きな推進力となり、成果を論文化することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで加齢に伴い血中Klothoが減少することに焦点を置き、Klotho減少下での血管収縮機序の解明をすべく研究を進めてきた。Klotho蛋白は腎臓で産生され、腎臓では膜型Klothoとして、1型FGF受容体と共に、FGF23の受容体として、リンやビタミンD代謝の調整に関わる。一方、血中Klothoは膜型の細胞外ドメインが、酵素切断により血中に切り出される、あるいはRNAスプライシングにて生じたものであり、ホルモン様に遠隔臓器に作用することが分かっているが、標的臓器のKlotho受容体は不明である。本研究では分泌蛋白であるWnt5aがKlothoと競合してWnt受容体に作用することが示唆されており、どのような機序であるかをさらに解明し、今後の高齢者高血圧治療における、Klotho補充療法実用化への足掛かりとしたい。
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