虚血性心疾患の死因として心室細動などの致死性不整脈が多くを占めている。虚血性心室細動症例における臨床データや遺伝学的な関連を解明し、その病態機序に迫ることが本研究の目標である。 遺伝的背景を探るため協力施設や当院の虚血性心室細動を生じた100症例以上の症例を集積し、そのゲノムを得ことができた。この多数例のゲノムを基盤として、すでに我々が構築したスクリーニングアッセイによる対象遺伝子の絞り込みを用いて原因遺伝子の絞り込みを行った。また、我々は虚血性心室細動と心電図のJ波に関連があることを以前から報告しており、J波と虚血性心室細動の関連についても検討した。 結果として、虚血性心室細動に関連した遺伝的背景は明らかにできなかった。日本人において遺伝的要因が少ないか、示すための症例数が不足していた可能性があった。しかし、遺伝子解析により心室性不整脈に関与する新たな遺伝子異常の検出に成功し、臨床的意義とともに報告した(申請者ら、Int Heart J. 2019、BMJ Case Rep. 2019)。虚血性不整脈の臨床データの解析から不完全血行再建による心筋虚血の残存が心室性不整脈の再発リスクであることを示した(申請者ら、Circ J. 2018)。早期再分極所見(J波)をもつ患者集団は心房細動の発症リスクも高いことを示した(申請者ら、J Cardiovasc Electrophysiol. 2019)。 虚血性心疾患患者において、冠動脈造影時にJ波の顕性化や増強する所見をとらえることに成功し報告した(申請者ら、Journal of Electrocardiology. 2021)。本年度は100例の連続症例において、これを評価し解析し、冠動脈造影時の心筋虚血や心筋伝導遅延がJ波形成の機序に関与していることを示した(申請者ら、Am J Cardiol. 2022)。
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