心筋梗塞後のリモデリングは急性期のみならず慢性期の予後に重大な影響を及ぼす。炎症反応はこれらの過程において重要な役割を果たしているが、心筋梗塞後の炎症反応の分子メカニズムには未だ不明な点が多い。我々は、心筋梗塞後のリモデリングにおいて重要な役割を果たしている炎症細胞の動態にDNA損傷・損傷応答が関与しているかを検討した。DNA損傷応答に異常を示すモデルとして、DNA二本鎖切断の修復に関わるKu80のノックアウトマウス(Ku80-KO)を使用し、その左前下行枝を結紮し心筋梗塞を作成した。心筋梗塞により、Ku80-KOで野生型マウス(WT)に比し心機能の低下、予後の悪化が認められた。心筋のDNA二本鎖切断は梗塞部、境界部、非梗塞部ともKu80-KOで多く、梗塞部の炎症性サイトカイン(IL-1β、IL6、MCP-1)の発現はKu80-KOで低下していた。梗塞部に集積したM1マクロファージ、M2マクロファージをそれぞれiNOS抗体あるいCD206抗体を用いて検討したところ、M1マクロファージの集積はKu80-KOとWTで差がなかったが、M2マクロファージの集積はKu80-KOで低下していた。Ku80-KOおよびWT大腿骨から得た骨髄細胞のマクロファージを、IFN-γおよびlipopolysaccaride (LPS)、IL-4、IL-10でそれぞれM1、M2a、M2cに分化させたところ、Ku80-KOはM1マクロファージへの分化が亢進、M2aマクロファージへの分化は低下していた。M2cへの分化は両群間で差がなかった。以上より、DNA損傷応答の異常は、心筋梗塞時のマクロファージの分化・動態に変化をもたらし、炎症反応の変化を介して心リモデリングに影響を与え、心機能、予後を悪化させることが示唆された。
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