研究課題/領域番号 |
18K08043
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
尾上 健児 奈良県立医科大学, 医学部, 学内講師 (90510173)
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研究分担者 |
位高 啓史 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 教授 (60292926)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 遺伝性心筋症 / 蓄積病 / 核酸医療薬 |
研究実績の概要 |
特発性心筋症や二次性心筋症などの心筋疾患は、原因遺伝子異常や発症機序が明らかにされ、その病態が徐々に解明されてきた。一方で治療方法は薬物療法や機械的補助、最終的には心臓移植といったいわゆる対症療法に限られており、原因療法の開発が疾患克服のため望まれている。近年、遺伝子やその転写産物をターゲットにした遺伝子治療や核酸医療薬が考案されているが、現在まで臨床応用可能な原因療法の開発には至っていない。本研究では、遺伝子異常により不足する正常蛋白質を核酸により補充するという原因療法を開発し、特発性心筋症をはじめとした心筋疾患治療において新たな臨床応用可能な核酸医療薬を確立することを目的とした。 初年度は拡張型心筋症を発症するモデルマウスである核膜内側に存在するラミン蛋白をコードするLmna遺伝子ノックアウトマウスに対し、生直後に正常野生型ラミンmRNA内包ミセルを投与し、野生型ラミン蛋白を発現させて治療効果を検証する方針とした。Lmna KOマウスは異常アレルを2本有すると、すなわちhomozygousな遺伝子異常を有すると、拡張型心筋症を発症するのみならず、成長障害を呈し、5-6週齢で死亡する。このhomozygous Lmna KOマウスに対し、正常野生型ラミンmRNAを投与し表現形の改善を期待した。しかし心臓へのmRNAのデリバリーが効果的でなく、デリバリー法の再検討を要した。2年目は、ラミン蛋白の補充による治療効果を検証するため、AAVを用いてラミン蛋白を補充し、表現形の改善効果を検証した。AAVを用い、ラミンmRNAを効率よく心筋内で発現するシステムを開発し、実際に投与を行なった。サンプル数を現在増やしている段階にあるが、ラミン発現群でコントロールマウスに対し生存期間の延長が認められている。今後心機能の改善などを確認し、学会発表・論文作成を行いたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は拡張型心筋症を発症するモデルマウスである核膜内側に存在するラミン蛋白をコードするLmna遺伝子ノックアウトマウスに対し、生直後に正常野生型ラミンmRNA内包ミセルを投与し、野生型ラミン蛋白を発現させて治療効果を検証する方針としていた。homozygous Lmnaノックアウトマウスに対し、正常野生型ラミンmRNAを投与し表現形の改善効果を期待したが、心臓へのmRNAの有効なデリバリー方法の開発に難渋し、デリバリー法の再検討を余儀なくされた。ラミン蛋白の補充による治療効果を検証するため、AAVを用いてラミン蛋白を心筋にデリバリーし、表現形の改善効果を検証する方針とした。2年目はこのAAVによるラミンmRNAの心筋への効率的なデリバリー法の開発に取り組んだ。ラミンmRNAをAAVベクターに組み込み、心筋への高効率な導入を示すウイルスセロタイプを検討の後、実際にラミンmRNAを心筋に高発現させるAAVベクターの作成に成功した。これを用いてLmna遺伝子ノックアウトマウスに対し、生直後に正常野生型ラミンmRNAを増加させることにより、コントロールマウスに比して有意な生存期間の延長が認められた。現在サンプル数を増やして検討を継続するとともに、心機能を評価し、生存期間延長効果の原因を検討する段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
Lmna遺伝子ノックアウトマウスに対し、正常野生型ラミン蛋白を補充することが、新規治療方法になると考え、当初はmRNA内包ミセルを投与し、野生型ラミン蛋白を心筋にデリバリーする予定であった。効率は低いものの、心筋へのデリバリーは認められているが、おそらく絶対量の不足から表現形の改善効果にまでは至っていなかった。mRNAのデリバリー方法の改良が必要と考え、Lmna KOマウスに対し、AAVを用いてラミン蛋白を心筋にデリバリーし、表現形の改善効果が得られるか検証した。上述の通り、AAVを用いたラミン蛋白補充群でコントロールベクター投与群に比し、生存期間の延長が認められ、十分量の蛋白投与でも表現系の改善が認められることが証明されつつある。今後3年目の令和2年度には、サンプル数を増やして再現性を確立するとともに、心機能評価を行い、生存期間延長の原因を詳細に検討する予定である。その後、学会発表および論文発表を行うことを目標とする。
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