研究課題
HDLは、悪玉コレステロールとされるLDLとは逆に、善玉コレステロールと定義されているが、その中にも実は動脈硬化その他を促進するとするsubpopulationが同定されつつある。特に、HDLコレステロール異常高値が予後を悪化させることが次第に明らかとなり、HDLの量、すなわち血清のHDLコレステロール測定値よりも質、すなわちHDLによるコレステロール引き抜き能が重要であることが広く知られるようになった。血清中のHDLのコレステロール引き抜き能(Cholesterol efflux capacity)と予後との関係では、動脈硬化性疾患のみならず、不整脈、特に脳梗塞や心不全の原因となる心房細動でもその機能が注目され始めた。本研究では、HDLの機能を改善させ、予後改善につながる治療法を見出すこと、あるいはHDL機能を簡便にモニタリングして動脈硬化性疾患や心房細動の予後や病勢を示すバイオマーカ-として用いることを目的としている。2019年度、本研究においては有意な冠動脈疾患に対してインターベンションを施行した症例のみを対象としていたが、心房細動に対し、肺動脈隔離術(心房細動アブレーション)を施行した261症例もその対象として、血清のHDLコレステロールやアポリポ蛋白、ApoA1、ApoB100値の測定のみならず、HDLによるコレステロール引き抜き能を測定し、心房リモデリングの進行度、すなわち心房容積インデックスとの相関を検討した。その結果、HDLによるコレステロール引き抜き能が低いほど、心房リモデリングが進行していることが明らかとなった。当初予定していたプロテオミクスにより酸化HDLを検出するための条件検討は未だ終了していないが、HDL引き抜き能の測定系を確立し、新たなcontext、心房細動でも興味深い結果を得られており、計画していた以上の進捗と考える。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究において、われわれは(1)順天堂冠動脈インターベンション(PCI)データベースの臨床データと(2)冷凍保存血清を用い、保存血清から単離したHDLのApoA1-Trp72の酸化をtargeted proteomics (oxidized proteomics)で検出・定量化して、HDLの参加がHDL機能に与える影響、さらに PCIを施行された症例における酸化HDLが予後、すなわち心血管死亡・心筋梗塞・脳卒中などの心血管イベントに影響を与えるか、について検討を続けている。順天堂PCIデータベースからの、年齢・性別・糖尿病・脂質低下薬を一致させた、少なくとも10年間イベントあり・なし症例を1:1で抽出し、90症例を抽出、現在はtargeted proteomicsの条件検討を続けている。HDLの機能の指標として、培養細胞に取り込ませたコレステロールを引き抜く能力、choresterol efflux capacityの測定系を確立し、比較的高いthroughput で測定が可能となったため、動脈硬化性疾患だけでなく、最も一般的だが、脳梗塞や心不全など、機能予後・生命予後に直接影響する心房細動症例も対象としてその測定を開始、保存検体も含め、261症例の測定を行い、心房細動の病勢とHDL機能の相関を見出した。HDLのtargeted proteomicsの条件検討は比較的困難でその進展は速いとは言えないものの、HDLのbiologyを動脈硬化以外の心血管疾患に拡大した、という意味では計画以上の進展と考える。
1) ApoA1-Trp72の酸化をtargeted proteomics (oxidized proteomics)の条件検討を終了させ、その確立された方法で検出・定量化して、冠動脈インターベンション後、イベントあり・なし群それぞれ90症例でその値を比較するnested case control studyを行う。その上で、HDL機能と予後に与える影響を検討し、さらにHDLの酸化に与える薬剤を検討する。2) 心房細動に対するアブレーション後の予後、すなわち心血管イベント(生命予後+特に脳梗塞などの塞栓イベント)と心房細動の再発に対し、HDL機能と酸化が与える影響について検討を加える。
HDL単離のためのカラムを2018年度に3本購入、2019年度に2本購入、2020年度はその数を増やしてより多くの検体を同時に測定できるようにする。PCI症例だけでなく、心房細動症例をにおける検討をさらに増やす予定である。HDL機能の測定とプロテオミクス関連に必要な消耗品が増加するため、実質の直接経費が減額となる2020年度にむしろリソースが必要と想定している。
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Nutrients
巻: 24 ページ: -
doi:10.3390/nu11061420