腹部大動脈瘤は無症状で進行し、大動脈瘤が破裂した場合の死亡率は60%以上と、予後不良な疾患である。動脈硬化の晩期退行病変と考えられてきたが、必ずしも危険因子は一致しない。特に糖尿病は負の危険因子であるとの報告が繰り返し行われている一方、危険因子であるという報告が散見される。近年、大動脈瘤の形成および破裂にvasa vasorumの機能不全が関係することが報告された。糖尿病では過剰な血管新生と血管新生障害が併存しており、血管新生パラドックスと呼ばれている。本研究では、糖尿病合併腹部大動脈瘤モデルマウスを作製し、高血糖が大動脈瘤のvasa vasorum形成に与える影響と大動脈瘤の形成および破裂との関係について検討を行う。また瘤壁の低酸素および高血糖で誘導されるヘパリン結合性成長因子midkineがvasa vasorum血管新生に果たす役割を検討し、糖尿病が大動脈瘤形成に与える影響が一定しないメカニズムを検討する。 アポE欠損マウスを用い、浸透圧ミニポンプで4週間アンジオテンシンII (Ang II) (1000 ng/kg/min)を皮下投与し腹部大動脈瘤モデルを作成した。大動脈瘤の瘤壁で、転写因子HIF-1αの発現が亢進していた。HIF-1αはmidkineの発現を調節していることを知られている。これよりmidkineの発現を検討したところ、やはり発現が亢進していた。streptozotocin (STZ) (30-40 mg/kg)を腹腔内投与し、糖尿病を誘導する。これにより、糖尿病が大動脈瘤形成に与える影響を検討する。
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