現代の高齢化社会において、心不全患者はますます増加しているが、高齢者の繰り返す心不全に対して有効な治療法はない。若年の時には恒常性を維持することが出来る、外的ストレスに対しての可塑性は加齢によって失われる。我々はこれまで、心臓の間質に存在するマクロファージが分泌蛋白を介して心保護的に作用することを報告してきた。そこで、心臓マクロファージが老化すると様々な外的シグナルに対して可塑性を失い、炎症型の表現型になることが心不全の病態生理において重要と考えた。心臓マクロファージの細胞起源は、出生時は胎児肝単球由来であるが、加齢や心不全になると骨髄造血幹細胞由来となる。加齢により造血幹細胞も老化するが、心臓マクロファージの表現系がどのように変化するかは未知である。老化、心不全といった病的モデルにおける、心臓組織の微小環境に与える影響と心機能の表現型を解析する。 老化マウスの骨髄移植後の心臓マクロファージを解析すると、心保護マクロファージの割合が低くなった。さらに慢性期には、心臓線維化を引き起こして心収縮力が低下した。細胞分化には、微小環境と細胞相互作用が関与する。細胞起源の変遷や骨髄老化の内因的因子(エビゲノムの変化)が分化に与える影響を解析する細胞競合的骨髄移植を行うと、骨髄老化が心臓マクロファージの分化、表現型に与える影響がわかった。この分子機序の解明が心臓の老化を抑制する新たな治療標的になると考えられた。造血幹細胞の内因的変化によって組織マクロファージの分化様式が変化し、さらにそれが臓器の構造的リモデリングを引き起こす、という結果はこれまでに報告がない。組織の加齢性変化に関して、間質の免疫細胞の細胞老化が病態形成の主要因子であることが分かった。
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