研究課題
本研究の目的は左心不全症例の右心不全発症、最重症化の要因となる肺高血圧症(第2群肺高血圧)の進展機序を明らかにすることである。重症化の起点となる肺動脈のリモデリング(前毛細血管性肺高血圧症)の進展に注目し、臨床情報、遺伝情報の包括的な解析によりハイリスク群の同定や進展に関わる分子機序の解明を目的に研究を進めている。2020年度は、2019年度に引き続いて急性心不全のため入院を要した左室駆出率の保たれた心不全症例の血行動態指標および心エコー図指標の検討を行った。右房圧、左房圧により肺高血圧の頻度およびその前毛細血管性肺高血圧の要素の存在比率が大きく異なることから、第2群肺高血圧の研究の解釈において心不全治療による血行動態の変化、評価のタイミングによる病態の違いを考慮する必要性が示唆された。そこで、心不全治療後の安定した症例に限定し解析を行い、心不全治療後においても持続する前毛細血管性肺高血圧症が退院後の予後に影響する因子であることを明らかにした。また、心エコー図指標のうち左室径(48mm以下)およびE/e'(16.5以上)を組み合わせることで、前毛細血管性肺高血圧の要素を有する肺高血圧症例を非侵襲的に予測できることを見出した。一方、2018年の肺高血圧シンポジウムにおいて肺高血圧を定義する平均肺動脈圧の引き下げが提言されたことから、この新たな定義に伴う2群肺高血圧の頻度や重症度分類についても検討を行い、臨床データによるリスク層別化について検討を深めた。現在、左室駆出率の高度低下をきたした症例も幅広く含む血行動態評価実施症例のデータ収集を進めており、左室駆出率の低下した心不全における前毛細血管性肺高血圧の頻度や臨床的な特徴を検討するとともに、ゲノムデータベースと臨床情報を合わせ遺伝学的リスク因子に関しても検討を行っていく予定である。
4: 遅れている
2群肺高血圧の臨床データに基づく層別化において、右房圧や左房圧などの血行動態指標により2群肺高血圧の頻度や重症度が影響を受けること、また、基準となる肺動脈圧を引き下げた新たな肺高血圧診断基準の影響などについて追加で検討を行ったため、ゲノム情報との関連性の検討への移行が遅れた。COVID19の感染拡大の影響もあり症例データの収集やゲノム解析等の実施にも遅れが生じた。
今後は、重症例を含む左室駆出率の低下した心不全症例へ対象を拡大することを予定しているが、これまで得られた知見より血行動態指標の変化や評価のタイミングにより2群肺高血圧の重症度や頻度は影響されるため、治療前後での変化も含めた検討が必要と考えている。その中で、心不全治療後も存続する肺血管抵抗上昇の頻度、臨床的特徴を検討するとともに、臨床表現型の層別化とゲノム情報との関連性を明らかにするため、表現型、重症度による遺伝的リスク因子の検討および同定されたリスク因子に基づく心不全症例の層別化と予後評価を進め、学術論文としての発表を行う。
COVID19感染拡大により学外における情報収集の機会が減少し、臨床データの収集にも時間を要し、ゲノムなどの解析の実施も遅れている。本年度は、重症症例も含む左室駆出率の低下した心不全症例に対象を広げて臨床データの解析を継続するとともに、臨床表現型の層別化とゲノム情報との関連性を明らかにすることを目標に研究を進めていく。
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