本研究の目的は左心不全症例の右心不全発症、最重症化の要因となる肺高血圧症(第2群肺高血圧)の進展機序を明らかにすることである。重症化の起点となる肺動脈のリモデリング(前毛細血管性肺高血圧)の進展に注目し、臨床情報、遺伝情報の包括的な解析によりハイリスク群の同定や進展に関わる機序の解明を目的に研究を進めてきた。 2021年度は、重症症例を含む左室駆出率の低下した心不全症例に対象を広げ、第2群肺高血圧を有する心不全症例の臨床表現型とゲノム情報の関連性の検討を行った。全エクソームシーケンスを施行した特発性拡張型心筋症症例において、既知の肺動脈性肺高血圧症関連遺伝子(ACVRL1、BMPR2、BMPR1B、CAV1、ENG、SMAD9、KCNK3)の稀少変異の臨床的意義について検討した。truncating variant (nonsense変異、frameshift変異、splicing領域の変異)と、missense変異のうち、CADD-phred scoreが10以上の変異を有害変異と定義したところ、197症例中25症例(18%)でPAHに関連する変異を認め、変異を有する症例群は、変異を有さない症例に比べ、初回心不全入院後の予後が有意に不良であることが明らかとなった。
|