研究課題
高齢化に伴って増加する心血管疾患に対する治療戦略として、血清脂質の量的管理のみならず質的管理の重要性が認識されるようになった。 とくに、HDL(highdensity lipoproteins:高比重リポタンパク質)の抗動脈硬化機能などの多様な機能を有しており、心血管疾患の新たな治療標的として注目を集めている。炎症を基盤とする病態ではHDL構成脂質組成が変化したり化学的修飾を受けたりすることにより、HDL機能が低下している。本研究では低下したHDL機能がHDLの取り込み能と関連があるかを調べるために、HDLの取り込みの分子機序を明らかにすることを目的とした。HDLの取り込み能を定量的に評価できる実験系を構築した。蛍光標識したHDLを細胞に添加し、その蛍光強度を測定することで細胞内に取り込まれたHDL量を評価することを試みた。蛍光強度を測定する方法を検討した結果、HDLを取り込んだ細胞を界面活性剤で溶解した後に、その溶解液中の蛍光強度を測定することが、再現性もよくスループット性も高いことがわかった。さらにApoA1と結合するタンパク質Xを同定した。タンパク質Xをノックダウン法を用いて細胞内の存在量を減少させると、HDLの取り込み能に変化が認められた。引き続きHDLと細胞との相互作用の分子機序の解明に取り組んでいる。一方、HDL-Cの低下により発癌リスクが上昇するとの報告がある一方、含有する分子によってHDLは癌の発生・進展に対しむしろ負の方向に働く可能性が示唆されている。HDLが含有する蛋白質についてプロテオミクス解析を行った研究では、細胞接着性糖タンパク質である“フィブロネクチン”を含むHDLの存在が報告されている。フィブロネクチンは癌の増殖、浸潤、転移に関わることが知られているが、担癌状態におけるHDLの病態生理学的役割にどのような影響を及ぼすのか明らかにした。
すべて 2020
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Kobe J Med Sci .
巻: 66 ページ: E40-E48