研究課題
近年、コレステロール逆転送系の最初のステップを反映するHDLのコレステロール引き抜き能が、HDL-Cよりも冠動脈疾患のリスク層別化により有用であるという報告が相次いでいる。しかしその評価にはラジオアイソトープや細胞を必要とし、臨床応用が困難である。これらの弱点を克服すべく、1) RIの代替として蛍光色素を用い(非放射性)、2) 血清と蛍光標識コレステロールをインキュベートし(無細胞)、3) ApoAI抗体でHDL粒子を捕捉した後の蛍光強度を測定する(HDL特異的)、新たなHDL機能評価系を開発し、得られた指標をコレステロール「取り込み」能と命名した。経皮的冠動脈形成術を施行した計207名の患者を対象に本指標を測定し、冠動脈ステントを留置してから平均42.3か月後に光干渉断層法を用いて冠動脈内を観察したところ、HDLコレステロール取り込み能の低下がステント内の新生動脈硬化病変の形成を予測する危険因子であることを明らかにした。また、本指標は標的病変の再血行再建率と有意な負の相関を認めた。さらにコレステロール取り込み能はステント内に生じた脂質リッチなプラーク病変の大きさならびにマクロファージの集積についても負の相関を示すことを明らかにした。一方、これまで用手法によりコレステロール取り込み能の測定を行っていたが、最近、完全自動化測定システムを構築した。引き続き本指標の臨床応用を目指し、心血管疾患のリスク層別化における有用性について検討する。さらに本指標を規定する因子について包括的な基礎研究・臨床研究・疫学研究を通じて解明する。
2: おおむね順調に進展している
コレステロール取り込み能の低下が冠動脈ステント留置術後の標的病変に対する再血行再建率の上昇につながることを明らかにしており、コレステロール取り込み能の臨床応用を目指し、心血管疾患のリスク層別化における有用性について検証するという目的に対し一定の成果を上げている。また多検体のコレステロール取り込み能をより短時間かつ、高い堅牢性をもって測定できる完全自動化測定システムが完成し、機能不全HDLが実際に日常臨床に及ぼすインパクトについて検証できる段階に到達している。現在、各種病態や薬物がコレステロール取り込み能に及ぼす影響について検討を開始している。さらにコレステロール取り込み能を規定する因子を同定することを目的とした基礎研究も着実に遂行中である。このように当初の研究目的に対し、順調に進展していると判断した。
完全自動化測定システムを用いて、久山町研究において2002年に健診を行った集団の保存血清のコレステロール取り込み能を測定し、1)性別・年齢毎の測定値との分布状況、2)各種脂質プロファイルとの関連、3)糖尿病や肥満、腎臓病など様々な病態との関連、4)食生活や運動、飲酒、喫煙などの生活習慣との関連、5) 心血管病や脳卒中、認知症、悪性腫瘍などとの発症との関連について検討する。コレステロール取り込み能を既定するHDL粒子に関する各種パラメーターとして、1) 核磁気共鳴法により測定したHDL粒子数・サイズとの関連、2)アポ蛋白構成およびプロテオーム解析による翻訳後修飾との関連、3) HDL中のリン脂質量・脂肪酸組成およびレシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ活性との関連、4) 運動療法や既存の薬物療法による介入が与える影響について検討を行う。各種薬物がコレステロール取り込み能に及ぼす影響について臨床研究を行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Journal of the American Heart Association
巻: 8 ページ: e011975
10.1161/JAHA.119.011975