研究実績の概要 |
本年度は心室細動(VF)に至る電気的基質の経年変化および潜在的基質の顕在化法について検討した。経年的VF基質の変化については,特発性VFの一型であるBrugada症候群の550例より,VF発症前後の心電図変化が確認可能であった14例と,対象群として典型的なtype 1波形を示し,2年以上不整脈発生がないことが確認されている無症候例48例を抽出した。無症候例では2年以上の経過での心電図変化,VF例ではVF発症6ヶ月以上前と発症時の心電図を比較した。経時的なQRS幅延長(≧+10ms,オッズ比 11.0),T波頂点-終末部間隔(Tpe)延長(≧+10ms,オッズ比 11.0),QRS棘波増大(オッズ比 14.7)がVF発生と関連していた。一方,type 1波形,J波,ST上昇などの指標はVF発生とは関連が見られなかった。本結果は経年的な脱分極異常進行(QRS幅・棘波増大)および再分極不均一性の増大(Tpe延長)がVF発生に関与していることを示している。 また,Brugada症候群245例での検討で,pilsicianide静注後の心電図変化,心室性不整脈発生と予後との関連について検討した。Pilsicainide静注でPQ・QRS・QT間隔延長が見られ,著明なST上昇が発生した。静注後に心室性不整脈が24例(10%)にみられた(心室期外収縮13例,心室頻拍・細動11例)。経過観察中に31例でVFが発生した。薬剤後の心電図指標として,PQ・QRS間隔延長,ST高増大,心室性不整脈発生が経過中のVFイベントの予測因子となった。多変量解析では患者背景として有症候性例(ハザード比 3.28),ST増高(≧0.3mV,ハザード比 2.8),薬剤誘発性心室性不整脈(ハザード比 3.62)が独立した危険因子となった。薬剤誘発性心室性不整脈発生および著明なST上昇はVFイベントの強い予測因子であり,薬剤による不整脈基質の顕在化が,経過中のVF発生と関与していることを示した。
|