研究実績の概要 |
心臓におけるToll-like 受容体(TLR)シグナルを介した炎症反応と不整脈発生・維持との関係は全く分かっておらず、本研究にて検討した。野生型マウスおよびTLR9 KOマウスに対し浸透圧ミニポンプを用いてアンジオテンシンII(AngII)(2mg/kg/日)の持続的投与を4週間施行した。心エコーによる左室駆出率、左室拡張末期径は両郡間に有意差はみられなかった。病理組織学的検討では、AngII投与群は非投与群に比べSirius Redによる左房の線維化率が増加していたが、TLR9 KOマウスは野生型マウスに比べ線維化率が有意に抑制されていた。特殊電極カテーテルを頸静脈から挿入し右心房に留置し、高頻度ペーシングにて心房細動の誘発を行ったところ、AngII投与群では高頻度に心房細動が誘発されることが確認された。TLR9 KOマウスは野生型マウスに比べ誘発率が抑制されていた。摘出心房内での血栓形成は、今回のモデルでは明らかなものは認められなかった。摘出心房の遺伝子発現を定量PCR法により検討したところ、炎症並びに線維化関連遺伝子(TNF-α, interleukin-6, TGF-β, collagen-1, collagen-3)の発現はTLR9 KOマウスは野生型マウスに比べ減少していた。ヒト心房細動患者および対照患者において、TLR9のリガンドであるcell-free DNAの血液中の濃度を測定したところ、心房細動患者が対象患者よりもcell-free DNAが高値であった。また、持続性心房細動患者の方が発作性心房細動患者よりもcell-free DNAが高い傾向も示された。以上の結果より、TLR9を介した炎症シグナルは心房の線維化を引き起こし心房細動発症の基質形成に寄与し、心房細動発症・進展にcell-free DNAを介した慢性炎症が関与している可能性が示唆された。
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