研究課題
マルファン症候群(MFS)はFBN1の遺伝子異常により全身の結合組織の構造・機能破綻を来す常染色体優性の希少難治性疾患である。とくに組織脆弱性に起因する大動脈瘤、大動脈解離が患者の予後やQOLに関わり重要である。MFSモデルマウスの大動脈では血管内皮においてxanthine oxidaseの発現と活性が亢進し、酸化ストレスが増大していた。さらに、xanthine oxidase阻害薬であるフェブキソスタットは大動脈瘤の進展を抑制した。また、MFSモデルマウスにおいて血管内皮特異的にxanthine oxidaseをノックアウトしたところ、大動脈瘤形成が抑制された。さらに、メカニカルストレスによる血管内皮でのxanthine oxidaseの発現誘導に、アンジオテンシンII(Ang II)タイプ1(AT1)受容体の活性化が関与する可能性について検討を行った。AT1受容体のメカニカルストレスによるAng II非依存的な受容体の活性化は、インバースアゴニスト活性の高いAT1受容体ブロッカーであるカンデサルタンによって抑制されるが、インバースアゴニスト活性を示さない誘導体カンデサルタン7Hでは抑制されない。MFSマウスにインバースアゴニスト活性の異なるAT1受容体ブロッカーを投与したところ、大動脈瘤形成はカンデサルタンによって抑制されたが、カンデサルタン7Hでは抑制されなかった。以上より、MFSの大動脈組織ではメカニカルストレスへの感受性が亢進し、血管内皮におけるxanthine oxidaseの発現が増加し、血管内皮由来の酸化ストレスにより大動脈瘤形成が促進されるが、大動脈へのメカニカルストレスによって活性化するAT1受容体がそのトリガーとなっていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
MFSの大動脈瘤形成における血管内皮におけるxanthine oxidaseの病因的役割については解析が終了した。また、大動脈でのメカニカルストレスへの感受性亢進によってAT1受容体が活性化することが大動脈瘤形成のトリガーであることも明らかとなった。本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
今後は、メカニカルストレスによる血管内皮でのAT1受容体の活性化がxanthine oxidaseの遺伝子発現増加や活性化を誘導する分子機序について解析を進める。具体的には、Human Aortic Endothelial Cell (HAEC)の培養系において、低浸透圧刺激およびcyclic strain刺激によるメカニカルストレスによって誘導される、FAKやp38 MAPKのリン酸化、xanthine oxidaseの発現が、インバースアゴニスト活性の異なるAT1受容体ブロッカーによってどのように影響されるかを検討する。さらに、トランスクリプトームデータを用いたシグナル伝達ネットワーク解析を行い、メカニカルストレスによるxanthine oxidase遺伝子発現増加の分子機序について検討を行う。
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