研究課題/領域番号 |
18K08103
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
錦見 俊雄 京都大学, 医学研究科, 非常勤講師 (80291946)
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研究分担者 |
中川 靖章 京都大学, 医学研究科, 助教 (70452357)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | proBNP / 糖鎖構造 / ゲル濾過 / 質量分析装置 |
研究実績の概要 |
proBNPに結合する糖鎖、はN端部分のThr、Ser殘基の7カ所にO型糖鎖が結合し、その先も幾つかの糖鎖が結合することが予想されているが、その実態は未だ明らかでない。なぜなら糖鎖の付着したproBNPをある一定量精製しないと次のステップである質量分析装置で解析ができないからである。しかしながら血中に存在するproBNPの量は重症の心不全でもせいぜい3~5ng/mLであり、10mlの血液がとれてもわずか30~50ngしか取れず、質量分析をかけるに十分な量と言えない。さらに精製の過程でロスが必ず起こり、回収率も通常低い(50%もあればいい方である)。 最近申請者はBNP濃度が35000pg/mL以上を有する症例を経験し、BNP高値の機序を解析するとproBNPのN端部分に自己抗体のIgGが結合し、分子量17万を超える大分子を形成し、そのため代謝を受けずに血液中に蓄積し、世界で最初のmacro-proBNP血症として報告した(Clin Chem2018)。この患者の血漿からプロテインGカラムを用いてIgG-proBNP成分を抽出し、凍結乾燥後、pH3の酸性緩衝液に溶解、IgGを外してゲル濾過HPLC解析法を行い、proBNPの溶出するfractionをさらにミニ透析、ミニゲル濾過で数回精製し、最終的に高感度のイオントラップ型LC/MS質量分析装置で糖鎖の同定を試みた。 急性心不全の患者を対象にproBNP、total BNPの意義について検討を行い、急性心不全の非代償期にはproBNP/total BNP比率が低下し、入院し治療を行うと徐々にこの比率が増えていく事象を見いだした。軽症例と重症例を比較すると軽症例で有意に入院時の比率が低かった。またcGMP/total BNP比率は軽症例で高く、この事象は急性心不全を代償する1つの機序であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々が報告したmacro-proBNPの患者さんから血液を提供頂き、IgG trapカラム、ゲル濾過、透析を経て、LC/MS質量分析装置で糖鎖の同定を試みたが、この精製過程で思わぬ事が起こったため、精製出来たproBNP量が少なく、LC/MS質量分析装置での解析が不十分な結果になった。1つはIgGを外すためにプロテインGカラムにpH3にしたバッファーで溶出し、ゲル濾過にかけたが、applyする液量が多かったので、数回に分ける必要があった。1回の時間が洗いを含めて2時間弱かかるためovernightしたがゲル濾過後各分画のBNPの測定では、それまで見られていたシャープなピークは見られず、ピークは遅れて鈍くなり、BNPの免疫活性もブロードになっていた。pH3でおいておくとシアル酸が化学変化を起こす事があることが文献で調べて判明した。もう一つの理由は、最後に透析を行い精製するが、この回収率が今回は少なかったことによる。 急性心不全の患者を対象にproBNP、total BNPの意義について行った研究では、急性心不全の非代償期には軽症例でのみproBNP/total BNP比率が低下し、cGMP/total BNP比率を上昇させ、心不全を代償する可能性を初めて示すことができた。臨床研究については比較的順調な進捗状況といえる。
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今後の研究の推進方策 |
macro-proBNPの患者さんに協力をお願いし、もう一度採血を行い(少し多めに20ml採血)、各精製過程を注意深く行い、再度proBNPを精製し、質量分析での解析を行う予定である。特に全ての過程で回収率を落ちないように吸着予防のチューブを使用すること、並びにpH3で処理する時間を出来るだけ手短かに行うことで、シアル酸の分解を含めた化学変化を予防できると考えている。十分な精製量が得られた後には、再度質量分析装置で糖鎖構造の解析を行う予定である。 臨床研究では今回英文論文化した心不全患者の成績を解析しているときに、心不全の治療中、腎機能低下する症例でNT-proBNPとmature BNPの挙動が異なる事に気づいた。これを詳細に解析し、NT-proBNP/mature BNP比率が、心不全の治療中早期に変化する症例では将来の腎機能低下を予知するかどうかを検討する予定である。ナトリウム利尿ペプチドファミリーの関連分子であるANPの分子型の測定も共同研究者の南野らが開発し、論文化している。この測定系を用いてANPの分子型の臨床的意義に付いても急性心不全症例で行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費、その他が予想より多くかかり、そのため旅費、人件費を抑えた結果、5349円が今年度余る事になった。来年度も物品費が予想よりかかりそうなので、このお金をあてて有効に活用する予定である。
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