研究課題
proBNPに結合する糖鎖を質量分析で解析するには一定量以上の精製物が必要である。最近申請者はBNP濃度が35000pg/mL以上を有する症例を経験し、BNP高値の機序を解析するとproBNPのN端部分に自己抗体のIgGが結合し、分子量16万を超える大分子を形成し、そのため代謝を受けずに血液中に蓄積し、世界で最初のmacro-proBNP血症として報告した(Clin Chem2018)。この患者の血漿からプロテインGカラムを用いてIgG-proBNP成分を抽出し、凍結乾燥後、pH3の酸性緩衝液に溶解、IgGを外してゲル濾過HPLC分析法を行った。proBNPの溶出するfractionをさらにミニ透析、ミニゲル濾過で数回精製し、最終生成物を高感度のイオントラップ型LC/MS質量分析装置で糖鎖の同定を試みたが、糖鎖構造解析にいたらなかった。この理由として精製の途中でIgGを外す為に、pH3の酸性緩衝液に溶解後、高濃度のNaリン酸緩衝液を用いてすぐに中和する(すぐに中和しないと糖鎖構造に影響する)が高濃度塩が産生することになり、これを完全に除ききれなかった事が一因と考えられた。またミニ透析、ミニゲル濾過を数回行ったが、膜への吸着等により、回収率が予想より低下したのも最終精製量の低下につつながったと考えられた。そこで生じた塩をC18カラムを用いて除く事とした。C18カラムに結合したproBNP、NT-proBNPを何%のアセトニトリル濃度で回収すれば最も効率が良いかをrecombinant proBNPを用いて予備的に検討した。アセトニトリル35%が回収率も85%と高く、不純物も少なく、精製度も高いと考えられた。現在、macro-proBNP患者の血漿を用いて、精製を行っているところである。
3: やや遅れている
macro-proBNP血症の患者さんから血液を提供頂き、IgG trapカラム、ゲル濾過、透析を経て、LC/MS質量分析装置で糖鎖の同定を試みたが、この精製 過程で思わぬ事が起こったため、精製出来たproBNP量が少なく、LC/MS質量分析装置での解析が不十分な結果になった。1つはIgGを外すためにプロテインGカラ ムにpH3にしたバッファーで溶出し、ゲル濾過にかけたが、applyする液量が多かったので、数回に分ける必要があった。1回の時間が洗いを含めて2時間弱かかるためovernightしたがゲル濾過後各分画のBNPの測定では、それまで見られていたシャープなピークは見られず、ピークは遅れて鈍くなり、BNPの免疫活性もブ ロードになっていた。pH3で留置しておくとシアル酸が化学変化を起こす事があることが文献で調べて判明した。もう一つの理由は、最後に数回のミニ透析を行い精製するが、回収率が少なかったことによる。今回はリン酸緩衝液ですぐに中和する事、塩の除去にC18カラムを用いる事で、酸による変性もなくなり、塩の除去もほぼ完全に出来、回収率も高くなると考えられ、現在患者血漿の精製を行っている。臨床研究では,我々が現行のproBNP測定系はproBNPを60-70%交差する事を示してきたので、糖化したproBNPを含んだStdを用いる事で(従来は BNP-32のみをStdとして使用)、種々のBNP測定系のcalibratorとして有用である事を示した。急性心不全で入院時のproANPはBNP、NT-proBNPよりも予後を示す指標として有用である事を示した。また急性心不全で入院中にNT-proBNP/mature BNP比率が大きくなる患者では将来の腎機能が悪化を予知することを示した。
これまでの糖化proBNPの精製過程で幾つかの問題点が、精製を妨げている事が明らかとなってきた。1つは酸性緩衝液によるproBNPのシアル酸の化学変化であり、これは迅速にリン酸緩衝液で中和する事で解決出来る。2つ目はこの中和過程で生じる塩が糖化proBNPの精製の純度を低下させる。従来はミニ透析を数回行っていたが、塩が残存し、精製は不十分で、回収率も低下させた。C18カラムを用いて予備実験を行った所、アセトニトリル35%でC18カラムに結合したペプチド成分の回収を行うと、約85%の回収率が得られ、塩もほぼ除去出来る事が確認された。これらのことに注意して、糖化proBNPの精製を行っていく予定である。最終的に質量分析装置による糖鎖構造の解明に結びつけたい。臨床研究も、従来我々が築き上げて来たproBNP、matureBNPを用いて新しいマーカーの提唱に結びつける事が出来たのと、さらにproANPの新知見を報告できたので、今後これらの知見をさらに発展させて、心不全の病態生理の解明やバイオマーカーとしての意義を確立していきたい。
英文論文校正費用が2件生じたが、予想より金額が安価だったのと、為替の関係もあり、8575円残りました。来年度も、糖鎖解析の研究の物品費、英文校正費用等に使用予定と致します。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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