本研究では、介在板から発信される恒常的なAMPKシグナルおよび病態によるその変容を解明し、心筋細胞間接着を基点とする新しいAMPKのバイオロジーを明らかにすることを目指す。 ① 細胞間接着部位のAMPK活性を生体でモニターするため、細胞膜に局在するPM-ABCARを発現するTGラット心臓より成熟心筋細胞を単離し、浮遊した状態で細胞接着が保たれたpaired cellsを選別し、ガラスピペットで進展刺激を加える実験系の構築を目指したが、細胞のダメージが大きく再現性のよい実験系の確立が困難であった。しかし、心筋細胞に収縮停止剤をくわえることによりメカノストレスを変化させ、微小管のdynamicsとの関連を示すことができた。 ② 細胞間接着部位のAMPKの基質として同定したCLIP-170の病態生理学的意義についてTGマウスを用いて検討した。AMPKによるCLIP-170のリン酸化部位に変異を加えた S311A TGマウスにおいて、有意な線維化と心収縮力の低下を認め、さらにドキソルビシン負荷心不全モデルに供したところ、コントロールに比べさらなる心機能の悪化を認めた。組織学的な検討でも心筋組織内に微小管の蓄積をみとめ、また電子顕微鏡による観察では介在板の構造異常が観察された。リン酸化を模倣するS311D TGマウスでは、S311Aとは対照的に有意な変化を認めず、CLIP170のリン酸化の意義を確立した。これらの結果をまとめた原著論文をEMBO Reportsにて発表した。 ③ さらに、介在板におけるAMPKの基質の探索をおこない、新規基質Xを同定し、CRISPR-Cas9法によりノックアウトマウスを作成した。ノックアウトマウスは、圧負荷心不全モデルに供するとWTコントロールに比較して、有意な心機能の低下をみとめた。Xの機能解析は、引き続き基盤研究にて進めていく。
|