研究課題/領域番号 |
18K08110
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
辻田 賢一 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (60571263)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 心不全 / 冠微小循環障害 / 心筋症 / 心筋虚血 / 冠内圧 / 冠血流 / 心筋エネルギー代謝 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、①非虚血性心不全症例の冠血行動態をCombowireにて評価し、冠微小循環障害(MVD)の存在を診断・分類する事、②基礎心疾患毎のMVDの血行動態破綻メカニズムの違いをカテゴライズし、基礎心疾患とMVD存在・病態の関連を明らかにする事、③MVD治療戦略開発に向け、各種薬剤や心内植込みデバイスのMVD改善効果判定を行い、基礎心疾患別の至適なMVD治療法を明らかにする事である。 平成30年度は、研究計画に則り、①対象患者のエントリーを行い、最大充血下冠微小血管抵抗(HMR)/冠血流予備能(CFVR)算出および各種採血サンプリングを施行した。血液サンプルは大動脈基部と冠静脈洞から同時に採取した。②MVD病態分類のカテゴライズと相関する臨床背景の検索を行い、冠循環の急性虚血に伴い、心筋におけるケトン体利用率が低下することをヒトの心臓で確認した(詳細下記)。③心内膜下心筋生検組織のサンプリングおよび病理学的評価も行った。
”心筋が虚血状態になると ケトン体利用率が低下する!” ケトン体はブドウ糖や脂肪酸とともに、エネルギー源として利用される代謝産物で、特に飢餓状態における代替エネルギー源であることが知られているが、心臓における具体的な利用率や病態での変化は分かっていなかった。そこで、心臓カテーテル検査を行なった患者を対象に、冠循環の入り口(大動脈基部)と出口(冠静脈洞)から採取した血液サンプルを解析して、ケトン体が心臓でどの程度取り込まれているかを調べた。解析の結果、通常状態において冠循環を血液が通過する間に、およそ35%のケトン体が消費されることが確認された。また、心筋虚血状態においては、ケトン体の利用率が著しく低下することを確認した。この変化は、わずか数分の間で生じるダイナミックな変化であり、心臓が絶えず動きながらも、エネルギー源を速やかに切り替えていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記”研究実績の概要”の通り、患者登録を得ることができ、計画通りの血行動態評価が行われた。また、心内膜心筋生検も数多くの症例で施行され、更なる解析の準備が概ね予定通り進行している。更にpreliminary dataではあるが、虚血の確認として施行している大動脈―冠静脈洞血液サンプリングデータから、冠循環の急性虚血に伴い、心筋におけるケトン体利用率が低下することをヒトの心臓で見出し、アメリカ心臓病学会誌のJACC誌に報告するなど成果も出ているため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究進捗に準じて、研究計画書に則り下記の推進方策を取る予定である。 (1)非虚血性心不全に対する通常治療および新規治療戦略の実施:本研究では、①既存の標準的心不全薬物治療群を対照群にして、②新規心不全薬物治療群(ARNI:アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬)と、③心臓再同期療法を含めた新規心不全デバイス治療群に割付け、前向きに患者予後をフォローする。しかし、ARNIの上市が今年度後半あるいは来年度にずれ込むようであれば、患者群②の登録が遅れる可能性がある。 (2)フォローアップ症例におけるMVD改善・増悪の予後規定因子の探索:フォローアップ時のMVD再評価データと初回検査時のMVDデータを比較し、各々の臨床背景因子や処方薬、治療方法などを従属因子とし単変量・多変量解析を行うことで、非虚血性心不全患者におけるMVD改善・増悪の予後規定因子の探索を行う。
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