活性酸素種は、血管細胞においてセカンドメッセンジャーとして機能し、血管修復に寄与する。しかし、活性酸素種の制御不全によるレドックスバランスの破綻は、酸化ストレスを引き起こし動脈硬化亢進の原因となる。本研究では、血管における活性酸素産生系と消去系の調節機構の解明を目的としている。最終年度である2020年度は、活性酸素消去系としてのNrf2の役割について検討した。 申請者は前年度に、血管傷害により血管内膜に接着した血球細胞がNrf2を強発現した単球/マクロファージ系の細胞であること、またNrf2遺伝子欠損(KO)マウスでは、単球/マクロファージ系の細胞の接着が亢進することを明らかにした。単球/マクロファージ系の細胞の遊走には、単球走化性因子(MCP-1)が関与するが、傷害血管におけるMCP-1の発現誘導には、WTおよびNrf2 KOマウスに差はなかった。そこで、WTおよびNrf2 KOマウスから単離したマクロファージにMCP-1を処置したところ、WT細胞においては、Nrf2の核移行とともに、Nrf2の標的遺伝子であるヘムオキシゲナーゼ-1とチオレドキシンが誘導した。さらに、MCP-1による細胞遊走がNrf2 KO細胞で亢進した。 以上の結果から、骨髄細胞におけるNrf2による抗酸化能は、MCP-1による単球/マクロファージの傷害血管への接着、浸潤を制御し、血管内膜肥厚抑制に関与していることが示唆された。これらの知見は、新たな動脈硬化進展メカニズムの解明とともに、新規治療ターゲットとしてのNrf2の可能性を示唆するものである。
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