家族性高コレステロール血症(FH)患者のHDL分画中に含まれる総リン脂質(HDL-PL)中のホスファチジルコリン(PC)比率が低く、リゾPC(LPC)比率が高いほどコレステロール引き抜き能(CEC)が低下すること、同じPC比率、LPC比率の患者でもCECは大きく異なることを見出した。そこでPCおよびLPCの脂肪酸側鎖情報に着目し、FHホモ接合体患者29名のHDL分画のリピドミクス解析を実施したところ、脂肪酸側鎖がステアリン酸とアラキドン酸であるPC、脂肪酸側鎖がステアリン酸であるLPCの濃度がCEC低下と頚動脈硬化の重症度と関連していた。しかし、対象を変えFHヘテロ接合体20名でリピドミクス解析を実施したところ、CECと動脈硬化に関連する新たなPC・LPCは見出せたが、脂肪酸側鎖情報が再現できなかった。その理由として対象集団の食生活等の特徴が反映される可能性や、脂質の多くが化学的に不安定であり、光や酸素により二重結合の異性化や酸化反応が非酵素的に起こり、クロマトグラフィ上での挙動や生物活性が変化した可能性を考えた。一方、PCをLPCに代謝する分泌型ホスフォリパーゼA2(sPLA2)反応が重要という仮説を得た。そこでバイオマーカー・治療標的候補として脂質よりは化学的に安定しているタンパク質・酵素のうち、HDLなどリポタンパク粒子上のPCをLPCに代謝するsPLA2に着目し、FH患者40名における複数のsPLA2の血中濃度を測定し、あるsPLA2がCECおよびHDL粒子サイズの両方と負に関連し、頚動脈硬化の重症度と正に関連する傾向を示した。したがってHDL粒子上でPCをLPCに代謝するsPLA2がHDLを悪玉化させるキー分子である可能性が高く、そのsPLA2は新たなバイオマーカー候補かつ創薬標的となり得る。
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