研究課題/領域番号 |
18K08128
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構岡山医療センター(臨床研究部) |
研究代表者 |
松原 広己 独立行政法人国立病院機構岡山医療センター(臨床研究部), 独立行政法人国立病院機構 岡山医療センター(臨床研究部), 統括診療部長 (70252955)
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研究分担者 |
小川 愛子 独立行政法人国立病院機構岡山医療センター(臨床研究部), 独立行政法人国立病院機構 岡山医療センター(臨床研究部), 分子病態研究室長 (40572748)
狩野 光伸 岡山大学, ヘルスシステム統合科学研究科, 教授 (80447383)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 肺高血圧 / シグナル伝達 / 転写因子 / 微小血管モデル |
研究実績の概要 |
肺高血圧症(PH)は難治である.PDGFシグナル経路はPHの病態である肺動脈平滑筋細胞(PASMC)の増殖に重要である.その阻害はしかし,臨床的効果がある投与量では副作用も生じ断念された.効果的増殖阻害を実現するためにはPDGF経路下流で,よりピンポイントの治療標的発見が必要である. 本研究は,研究代表者らが最近肺高血圧症でのPDGF経路下流として見出した転写因子DLX1に着目して進めるものである.平成30年度には,肺高血圧症の原因疾患の一つである慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)において,手術検体の病理組織学的検討を行い,日本のCTEPH患者の血管病変において線維化が顕著であることを報告した(J Thorac Cardiovasc Surg 2019).また,CTEPHを含む複数の肺高血圧症の原因疾患に対し,患者由来のPASMCにおいてDLX1が増殖に必須であることを確認した.このようなベースラインの増殖におけるDLX1の重要性に加え,DLX1ノックダウンによりPASMCのPDGF刺激に応じたCCND1遺伝子発現増加やBrdUの取り込みといった増殖応答が顕著に抑制されることを示した.こうした知見に基づき,令和元年度は,DLX1の下流標的遺伝子であり,かつ,PASMCの増殖に関与する遺伝子の探索を行い,インテグリンを候補因子として同定した.実際,同定したインテグリンサブユニットのノックダウンを行った場合も,DLX1ノックダウンを行った場合と同様に,PASMCのベースラインでの増殖ならびにPDGF刺激に応じた増殖が抑制されることを見出した. さらに,肺高血圧症患者由来PASMCの増殖等の影響を評価する培養系として,立体培養を用いた肺動脈中膜肥厚モデルの開発に成功した(manuscript in revision).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は,DLX1ノックダウンによりPASMCの増殖が抑制される機序の探索を行う予定としていた.実際,灌流培養したPASMCにおいてDLX1ノックダウンの影響を解析すべく,microarray解析を行った.DLX1の下流標的遺伝子の探索を行い,DLX1ノックダウンによりインテグリンの発現が抑制されることを見出した.また,インテグリンのノックダウンにより,肺高血圧症患者由来PASMCのベースラインでの増殖およびPDGF刺激に応答しての増殖のいずれもが,DLX1をノックダウンした場合と同様に抑制されることを見出した.以上のように,肺高血圧症患者由来PASMCのベースラインでの増殖におけるDLX1の機能の解析が順調に進んでいる.さらに,肺高血圧症患者由来PASMCの増殖等を調べるための新たなin vitroの立体培養系の開発に成功し,論文投稿に至った.
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度にDLX1の下流の標的遺伝子かつ増殖に関わる遺伝子として同定したインテグリンの解析を深化させる.具体的には,PDGFによるインテグリンサブユニットの発現への影響や,インテグリンがPASMCの増殖に関わるメカニズムの解析を進める.また,灌流培養モデル中にてインテグリンをノックダウンし,増殖や病態関連遺伝子の発現への関与を解析する.さらに,新規開発した立体培養による肺動脈中膜肥厚モデルも利用し解析を進める.以上を通じ,肺高血圧症患者由来PASMCにおいて,PDGFがDLX1およびインテグリンを介し,増殖を促すメカニズムを解明し,新規治療戦略開発に資する知見を得る予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定よりPDGF/DLX1の下流標的遺伝子の探索が順調に進み,候補因子としてインテグリンを同定することができたため. 次年度は,灌流培養モデル中にてインテグリンをノックダウンし,増殖や病態関連遺伝子の発現への関与を解析することに注力する.
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