肺癌の原因となる遺伝子転座の一つであるEML4-ALKの分子機構について研究した。ALK分子は自己リン酸化されることでがん細胞の増殖に寄与するが、ALK活性阻害薬を長期に投与するとALK遺伝子に変異をきたし耐性を生じることが知られている。我々の研究では、ALKと融合しているEML4タンパクに注目しその機能を解析した。まず、ALKタンパク質の細胞内領域と、2量体形成を分子レベルでコントロールできるFKBP分子を融合したタンパクを作成し、マウスB細胞由来のIL3依存性細胞株に遺伝子導入した。この細胞に2量体誘導分子であるB/Bを加えると、細胞増殖は維持されるが、B/Bを除去した状態で細胞培養すると、増殖せずに細胞は死んでいくことをみいだし、ALKタンパクが活性を有するためには多量体化が需要であることを示した。さらにEML4分子が多量体を形成しないとALKがリン酸化されないことが分かったため、多量体を分離し単量体化することでがん細胞の増殖を抑えられる可能性を示した。EML4のcoiled-coil領域が多量体形成に重要であることが知られているため、同部位の類似タンパク(CCペプチド)を作成し細胞に投与した。このCCペプチド投与群の細胞では、非投与群に比較し70-80%程度の細胞増殖抑制効果であった。この治療法での欠点は、ALK自体にF1174Lと言われるALK自体が単量体でも活性を持つ変異を獲得すると無効になってしまうことが予想される。 CCペプチドの細胞内移行性が薬理作用に大きく影響するため、細胞内移行を容易にするペプチド修飾を加えて検討しているが、in vivoでの有効性を示す改良には至っていない。今後も引き続き細胞内移行性やEML4以外のコイルドコイルへの応用を検討していく。
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