研究課題/領域番号 |
18K08136
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大河内 眞也 東北大学, 事業支援機構, 講師 (40375035)
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研究分担者 |
黒澤 一 東北大学, 事業支援機構, 教授 (60333788)
岡田 克典 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (90323104)
兼平 雅彦 東北大学, 大学病院, 助教 (90374941)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エピゲノム / メタボローム / 肺線維症 / 間葉系幹細胞 / 脱共役呼吸 |
研究実績の概要 |
私たちは、間葉系幹細胞が低酸素下に大量に放出するStannicalcin-1(STC1)が、肺線維症動物モデルに対する抗線維化作用を持つことを発見した。STC1はUncoupling Protein 2(UCP2)を誘導することにより、肺構成細胞のミトコンドリアの活性酸素種を低下させた。その結果、組織の小胞体ストレスも低下した。STC1は経気道投与も可能で、代表的な抗酸化物質Nアセチルシステイン(NAC)に勝る抗酸化活性とNACには無い生理作用を持つため、STC1吸入療法が肺線維症の新規治療になり得ると考える。 昨年度は、線維化の中心的メカニズムであるTGFβ/SMAD系にSTC1が与える影響を詳細に検討することと、STC1が細胞の代謝系に与えるメカニズムを俯瞰的に捉えることを目的とした。 研究の結果、STC1は肺構成細胞のSMAD2/3のリン酸化を抑制することが明らかにした。これは抑制性SMADであるSMAD7を誘導することによるものであった。メタボローム解析からは、STC1がシステイン・メチオニン代謝経路に強く影響することが明らかになった。システイン・メチオニン代謝経路は多様な組織障害に応答して、エピジェネティクスなタンパク発現調整やレドックス活性を誘導し、生体の恒常性維持や組織再生に働く代謝経路である。 我々は、STC1が酸化型システイン(GSSG)に対する還元型システイン(GSH)の比率を上昇させること、DNA脱メチル化酵素DNMT1とDNMT3Aの発現を低下させること、SMAD7がSTC1による脱メチル化を受けること、なども明らかにした。STC1が、長鎖遊離脂肪酸消費やβ酸化をUCP2依存性に亢進させることにより、SMAD7のアセチル化を誘導することも見いだした。 本年度はSTC1の線維化関連遺伝子に対するエピゲノムについて、より詳細に明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要にも述べたが、2018年度に明らかにしたことを下記に示す。 ①STC1は肺構成細胞のSMAD2/3のリン酸化を抑制する。②STC1は抑制性SMADであるSMAD7を誘導する。③STC1は肺構成細胞のシステイン・メチオニン代謝経路に強く影響する。④STC1は酸化型システイン(GSSG)に対する還元型システイン(GSH)の比率を上昇させる。⑤STC1はDNA脱メチル化酵素DNMT1とDNMT3Aの発現を低下させる。⑥STC1はSMAD7の脱メチル化を促す。⑦STC1はヒストンアセチル化酵素の支配を受け、長鎖遊離脂肪酸消費やβ酸化をUCP2依存性に亢進させる。⑧STC1はSMAD7のアセチル化を誘導する。 以上より、多くの新規所見を得ることが出来たと考えている。そのため進捗状況はおおむね順調と考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はSTC1の線維化関連遺伝子に対するエピゲノムについて、より詳細に明らかにしていく予定である。また、動物実験などでも、STC1のTGFβ/SMAD系に与える影響や。エピゲノムなどを詳細に検討する。また、学会発表、産業化、論文化なども並行して行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
既存の装置、消耗品を有効活用できたため。本年度は科研費を優先して使用する。消耗品費、学会発表、旅費として全額使用する予定である。
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