研究実績の概要 |
間葉系幹細胞由来の液性因子STC1が、抗酸化ストレス、抗アポトーシス作用を有することが報告されている(Mol Ther, 2012, 20, 417-23)。STC1経気道投与は、ブレオマイシンによる肺線維化を抑制する(Mol Ther, 2015, 23, 549-60)。 今回の研究では、STC1がミトコンドリアに関連する中心代謝経路(TCA回路、β酸化)やその周辺にあるグルタチオン回路、メチオニン回路に影響することが明らかになった。グルタチオン回路は抗酸化作用、β酸化やメチオニン回路は翻訳後修飾(タンパク・DNAのメチル化・アセチル化を通してタンパク発現を調整すること)に関わる。抗線維化因子SMAD7は翻訳後修飾の影響を受けやすいこと(BBRC 2018, 496, 700-705)より、STC1がSMAD7の翻訳後修飾に重要との仮説を立てた。実験結果は、STC1が様々な細胞でSMAD7を誘導し、TGFβ・SMAD2/3経路の活性化を抑制しすることを示した。さらに、STC1がSMAD7遺伝子プロモーター領域のメチル化を抑制すること、SMAD7タンパク早期アセチル化によりSMAD7の安定化を誘導することを明らかにした。次にSTC1経気道投与がブレオマイシンモデルにおける肺IL6産生を抑制することを発見した。STC1がIL6アンプ回路(IL6自身がJAK/STAT系を介してIL6産生を増強すること)を抑制すると考え、実験を行い以下のことを発見した。 STC1経気道投与は、抗JAK/因子であるSOCS1の翻訳後修飾に影響し、SOCS1発現を増強しした。SOCS1はJAK1ユビキチン化を誘導しSTAT3リン酸化およびIL6産生を抑制した。 まとめると、本研究により、STC1吸入は肺線維症治療のみならずCOVID19や自己免疫疾患の治療に使える可能性が示唆された。
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