研究課題
増悪を繰り返すCOPD患者は病期によらず存在し予後不良でありその対策は急務である。喀痰の多いCOPD症例は呼吸機能の経年的低下率が大きくCOPD増悪頻度が有意に多い。COPD増悪頻回例では病原菌に対する気道粘膜防御機構が脆弱であり、COPD増悪予防には気道粘膜の易感染性を改善する必要がある。COPD治療薬として使用される長時間作用性ベータ2刺激薬(LABA)および長時間作用性抗コリン薬(LAMA)がともにCOPD増悪を抑制することは知られているがその詳細なメカニズムは不明である。本研究では、COPD患者の気道では気道粘膜下腺から常に分泌される新鮮気道分泌液の特性異常が存在し粘膜防御機構の脆弱化に関与しているとの仮説のもと、LABAおよびLAABA/LAMAがこれを正常化する可能性を解明する。初年度は、ブタ気管粘膜面での新鮮分泌液の可視化を可能にした。分泌量(分泌速度)と質(pH)について、定常状態(ACh単独刺激下)および炎症惹起状態(ACh+LPS刺激下)のそれぞれで評価した。定常状態の新鮮気道分泌量は3種類のLABAにより部分的に抑制され、そのpHはLABAおよびLABA/LAMA併用によりアルカリ側に変化する傾向を認めた。炎症惹起状態では気道分泌量は大きく増加し、pHは酸性側に変化する傾向を認めた。この炎症惹起状態においてもLABAは気道分泌量を抑制し、pHをアルカリ側に変化させる傾向を示した。慢性炎症によって気道過分泌および病的酸性化に変化した気道分泌液をLABAおよびLABA/LAMA併用ともに正常化に変化させる可能性が示唆された。以上の研究結果は2019年4月の日本呼吸器学会総会で発表した。本研究をさらに発展させることにより、新規治療薬の開発に向けた基礎を提供しCOPD増悪予防を目的とした安全で有効な早期治療法の確立と臨床応用が可能である。
2: おおむね順調に進展している
2018年度の当初の計画であったブタ気管粘膜面での新鮮分泌液の可視化を可能にするシステムを構築することができた。既存のCOPD治療薬であるLABAおよびLABA/LAMA併用による気道分泌液特性の正常化を確認することができた。定常状態および炎症惹起状態におけるそれぞれの解析も可能となった。いくつかの実験プロトコルでは統計学的処理可能なレベルにまでデータ数が達している。CFTRは気道に豊富に発現する陰イオンチャネルであり、Cl-だけでなくHCHO3-分泌に関与することから、本研究結果にはCFTRの機能不全が大きく関わっていると考えられる。データ数は限られるがCFTR阻害剤の効果を確認中である。並行して実施している気道上皮線毛輸送運動の観察および周波数、振幅などの観察・定量化について予備実験を行っている。既存の高速度カメラ付き顕微鏡システムを用いた予備研究も進んでおり、本研究の主題であるCOPDにおける気道粘膜防御能の脆弱性の定量化、気道被覆液の質的正常化を可能とする新規治療法の確立に向けて、今後更なる研究を発展させる基盤を構築できた。
炎症惹起状態においてなぜ気道分泌が増えるのか、なぜ酸性化に傾くのか、その分子機序を明らかにする必要がある。またLABAおよびLABA/LAMAがそれらを正常化するメカニズムにどのような分子が関与しているのか確認する必要がある。過去の報告および我々の検討結果より、CFTRが第一候補として考えられる。CFTRは気道に豊富に発現する陰イオンチャネルであり、Cl-だけでなくHCHO3-分泌に関与すること、およびCFTRの機能不全が本態である嚢胞性線維症では気道被覆液のpHは健常人より酸性に傾いていることが知られている。現喫煙者やCOPD症例では気道のCFTRの発現低下と機能不全を認めることも知られている。CFRT機能不全は気道表面の脱水および酸性化を引き起こし、ムチンの過剰貯留や変性が気道粘膜防御機構の破綻を来し、COPD増悪病態の一部を形成する可能性をさらに検討する。
当初pH測定用として予定していた蛍光色素BCECF/蛍光顕微鏡による解析法およびイオン交換樹脂/微小電極による解析法ではなく、より安価なプロトン選択的色素SNARF-1 dextranとマルチプレートリーダー(FlexStation 3)による自動解析法が可能であったことが原因と考えられる。また参加した国際学会が国内開催であったことも旅費の経費が少なかった原因と考えられる。2018年度の研究成果は概ね達成できており、次年度使用額として使用することで研究に支障は来さない。2019年度は昨年度の得られた研究結果の信頼性を高めるために、現在の実験を継続して統計学的有意差の解析が可能な実験データ数を十分増やす予定である。炎症惹起状態の気道分泌液特性の変化に関与する分子候補としてのCFTRの関与を確認するために、複数のCFTR阻害剤による抑制効果、および免疫染色・ウェスタンブロットによる蛋白発現、RT-PCR法などを用いた発現異常の存在などを確認する。ブタ気道だけでなく、健常人ドナーおよびCOPDドナーからの気道を用いた新鮮気道分泌液に対する検討および、その分泌液存在下での細菌増殖抑制効果の比較や粘液線毛運動輸送能の比較を行う。次年度の研究費はこれらの研究遂行および論文を含めた成果発表に使用する予定である。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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