研究課題
COPDは主に喫煙によって気道と肺胞に慢性炎症が生じることで発症し、進行すると肺胞壁の破壊による気腫化に発展する場合もある。SCGB3A2は、肺炎、肺線維症の改善効果、肺発生での細胞増殖や線毛の再生効果を有する。さらに最近我々は、SCGB3A2は肺気腫を抑制する可能性も見出した。そこで本研究では、SCGB3A2を利用した新規COPDペプチド薬の開発を目指し、SCGB3A2の気腫化抑制メカニズム解明を目的とする。初年度は、SCGB3A2ペプチドの活性部位の決定を中心に各合成ペプチドの①細胞増殖効果、②マウス胎仔肺の気管支分岐促進効果、③アクロレイン誘導性アポトーシスに対するアポトーシス抑制効果を検討した。SCGB3A2はスプライシングによって、Type A, Type B, Type Cの3種が存在する。成獣のマウスでは主にType Aが存在することが報告されている。Type Cは3種のタイプのなかでアミノ酸が最も多く、3種のSCGB3A2のアミノ酸配列には共通部分も存在する。そこで、初めに、Type Cに対してシグナルペプチドを除いた8種のペプチドを20アミノ酸残基ごとに合成し、その活性について上記の①-③の効果を検討した。実験の結果、Type CのC末端側のペプチドが個々の活性を示した。具体的には、79 A -95 Rは気管支分岐促進効果と抗アポトーシス効果、107F-126Qは細胞増殖効果、127D-139Lは気管支分岐促進効果を示した。初年度の実験により、SCGB3A2 Type CのC末端側のペプチドがSCGB3A2の生理活性を示していることが明らかになった。そこで、次年度はC末端側のアミノ酸配列は共通部分も多いType AとType BのC末端配列を合成し、それらの①-③の生理活性を検討し、動物実験によるCOPD薬としての有効性の検討に繋げる。
2: おおむね順調に進展している
SCGB3A2にはType A、Type B、Type Cの3種が存在し、成獣マウスではヒトと同様にType Aが主に存在する。しかし、マウスの胎仔(E11.5- E18.5)と成獣マウスの肺における3種の遺伝子発現を調べた結果、胎仔における肺発生過程でのみType Cの発現が高いことが今回初めて明らかになった。そこで、はじめにType Cに対して網羅的にペプチドを合成し、その活性を評価した。この結果をもとに、Type AとType BのC末端側のペプチド合成も行ったが、Type Bのペプチド合成が困難で準備に時間を要した。そのためType AとType Bのペプチドに対する生理活性の有無が明らかになりつつある。具体的には、Type Aペプチド(71L-91V)は、Type CのC末端側の3種のアミノ酸配列で認められた、細胞増殖効果、気管支分岐促進効果、アポトーシス抑制効果のすべてがType Aペプチドで示された。Type Bペプチドでは、予想に反し、細胞増殖抑制効果が認められ、現在この効果の原因メカニズムを推測している。 また、Type A、Type B、Type Cすべてのペプチドの効果として細胞内シグナルの検討を行っていない。SCGB3A2は、細胞内シグナルとしてJAK-STATの系を通ること、STAT1とSTAT3のリン酸化を介することを明らかにしており、各ペプチド添加後の細胞内のSTAT1とSTAT3のリン酸化の検討が残された。これらの効果の検討を培養細胞系と気管支培養系を用いて行った後、COPDモデルマウスに対するペプチドの添加によるCOPD改善効果を検討する。以上のことから、初年度の実験として、動物実験の開始には至らなかったが、各ペプチドの活性評価が一部を除いて順調に進んだため、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
まず、初年度で残された各ペプチドの細胞内シグナルへの効果をpSTAT1とpSTAT3を標的にして評価する。評価終了後、COPDモデルマウスの作製を開始する。初年度の各ペプチドの活性評価の過程で、SCGB3A2 Type Aタンパク質の立体構造を予測し、Type AペプチドがSCGB3A2タンパク質の立体構造上のどの部分に位置しているかを明らかにした。SCGB3A2は4つのαへリックス構造を有しており、Type Aペプチドは4つめのαへリックスを構成することが明らかになった。以前よりSCGB3A2はウテログロビン(UG)と相同性が高いと知られている。UGも4つのαへリックス構造をとり、特に3つ目のαへリックス構造を構成するアミノ酸(61T-70L)がホスホリパーゼA2(PLA2)阻害活性を示し、これによりUGが抗炎症作用を示すことが報告されている。SCGB3A2とUGのアミノ酸配列を比較したとき、Type Aペプチド(4つめのαへリックス構造)に隣接する配列であった。COPDモデル作製にはマウスへのタバコ煙曝露に24週要するため、モデルマウス作製期間中に新たに、PLA2阻害活性候補部位を含む58H-91Vペプチドを合成し、その生理活性を評価する。これらのペプチドの活性が決定された後、COPDモデルマウスに活性が期待できるペプチドを尾静脈投与する。投与期間は、11-12週、23-24週など曝露期間24週のうち、7日間毎日行うこととする。
ペプチド活性評価に時間が要した結果,当初計画していた動物実験を開始できなかったため物品等の購入が計画より少なかったことによる。学内業務が重なり,予定以上に教育以外の学内業務に時間がとられ,予定した研究に対するエフォートに相当する時間の研究ができなかったたため。
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J Physiol Sci.
巻: - ページ: -
10.1007/s12576-019-00661-0.
巻: 68 ページ: 77-87
10.1007/s12576-016-0509-5
http://kurotani-lab.yz.yamagata-u.ac.jp
https://acebe.yz.yamagata-u.ac.jp/