研究課題/領域番号 |
18K08138
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
黒谷 玲子 山形大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (00453043)
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研究分担者 |
阿部 宏之 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (10375199)
柴田 陽光 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (60333978)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | SCGB3A2 / COPD / emphysema |
研究実績の概要 |
COPDは主に喫煙によって気道と肺胞に慢性炎症が生じることで発症し,進行すると肺胞壁の破壊による肺気腫に発展する場合もある。SCGB3A2は,肺炎や肺線維症の改善効果,肺発生での細胞増殖や線毛の再生効果を有する。さらに我々は,SCGB3A2の肺気腫を改善する効果も見出した。一方,リコンビナントSCGB3A2調整時のLPS混入が多く,精製後のSCGB3A2の回収率の低下が問題であった。そこで,本研究では新規COPDペプチド薬の開発を目指した新規SCGB3A2ペプチドの開発とその気腫化抑制メカニズムの解明を目的とする。 SCGB3A2はスプライシングによって,Type A,Type B,Type Cの3種が存在する。成獣マウスでは主にType Aが存在することが報告されている。Type Cは3種のタイプのなかで最も長いアミノ酸配列からなり,3種に共通のアミノ酸配列も存在する。そこで,初年度は,Type Cに対してシグナルペプチドを除いた8種のペプチドを20アミノ酸残基ごとに合成し,その活性について以下の①-③を検討した。 SCGB3A2ペプチドの活性部位の決定を中心に,各合成ペプチドの①細胞増殖効果,②マウス胎仔肺の気管支分岐促進効果,③アクロレイン誘導性アポトーシスに対するアポトーシス抑制効果を検討した。この結果,Type CのC末端側のペプチドに細胞増殖効果,気管支分岐促進効果,抗アポトーシス効果があることが示された。本年度は,Type AとType BのC末端のペプチドを合成し,それらの①-③の生理活性を検討した。この結果,Type Aペプチドには,SCGB3A2に類似した生理活性が有することが明らかになった。さらに,SCGB3A2ペプチドの疾患への有効性を実証するためのモデル動物の作製を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SCGB3A2にはType A,Type B,Type Cの3種が存在し,成獣マウスではヒトと同様に主にType Aが多く存在する。さらに,初年度の実験で,マウスの胎仔における肺発生過程で,Type Cの発現が高いことが明らかになった。そこで,初年度は,網羅的にType Cのペプチドを合成し,その活性を評価した。次年度は, Type AとType BのC末端側のペプチド合成を行い,それらの生理活性を評価した。具体的には,Type Aペプチド(71L-91V)は,SCGB3A2やTyp Cペプチドと類似した細胞増殖効果,気管支分岐促進効果,抗アポトーシス効果を示した。また,Type Aの細胞内シグナルの検討が進み,SCGB3A2と同様にType A刺激によって,細胞内のSTAT3のリン酸化が促進された。現在STAT1のリン酸化の検出に問題が生じ,Type Aペプチド刺激後のSTAT1の活性化評価が残されている。また,本年はSCGB3A2ペプチドの生体内での効果を評価するために,マウスモデルとしてマウス用噴霧器を用いたcOVAによる気管支喘息モデルの作製を試みた。炎症の誘発が予想より強かったため,現在cOVA感作条件を検討している。まず,生体内で分解されやすいとされるペプチドの効果を実証するために,SCGB3A2ペプチドの鼻腔投与による気管支喘息モデルマウスの肺炎改善効果を検証したい。最終的には,タバコ煙曝露COPDモデルマウスに対するSCGB3A2ペプチドの効果を検証したい。 以上のことから,本年度は動物実験に着手できたため,本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度中に評価のできなかった,SCGB3A2ペプチドのpSTAT1の評価を行う。また,SCGB3A2ペプチドの鼻腔投与による気管支喘息モデルマウスの肺炎改善効果の検証を実施する。気管喘息モデルマウスを用いて,SCGB3A2ペプチドの抗肺炎効果が実証された後に,タバコ煙曝露COPDモデルマウスに対し,SCGB3A2ペプチドの効果を検証する。実験として,活性が期待できるペプチドをCOPDモデルマウスに尾静脈投与する。投与期間は,11-12週,23-24週など曝露期間24週のうちの7日間毎日行うこととする。評価は,主に病理学的解析と遺伝子学的解析によって行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として,本年度は,予想以上に実験結果が効率的に得られたことにより,予定していた経費を使用せずに済んだことがあげられる。また,連携研究者による協力が大きく,支出額が予定より少なくなった。さらに,動物実験を開始できたが,本格的な実験にまで進行しなかったことも理由の一つである。予定していた学会発表の一部が学内業務と重なり,出張が中止されたことも理由として挙げられる。 使用計画として,現在研究として残されている,新しいペプチドの合成,本格的な動物実験を計画している。そのための動物の購入費や維持費に使用する。さらに,細胞培養に必須な牛胎児血清(FBS)は,培養結果を左右する極めて重要な物質であるため,高品質ロットのFBSを大量購入する必要がある。現在FBSの価格が高騰しているが,培養には欠かせないので,FBSの購入に充てたい。さらに,研究代表者は育児中であり,学内業務と研究とを両立するためには実験補助者の協力が必要である。そのために,人件費として使用する予定である。
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