特発性肺線維症に対する革新的な分子標的治療法の開発

2020 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 18K08145
• 研究機関: 山口大学
• 研究代表者: 角川 智之 山口大学, 医学部, 教授(特命) (90570953)
• 研究期間 (年度): 2018-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: HSP47 / 特発性肺線維症

研究実績の概要

特発性肺線維症（IPF）は根治治療が存在しない難病であり、新規治療薬開発が急務である。我々はコラーゲン合成に必要不可欠な蛋白質であるHSP47が、各種線維化疾患においては線維化進展を促進し負の生理作用をもたらすことを実証してきた。本研究は、①HSP47に対するsiRNAを用いた直接的なHSP47発現抑制、②HSP47 inhibitorを用いたHSP47シャペロン機能の抑制、という２つの異なるアプローチを用い、“HSP47をターゲットとした分子標的治療”という新しい観点から線維化を抑制する治療法を創出することを目的とし研究を行った。
本研究では、HSP47 siRNAはHSP47発現を直接抑制することを通してI型コラーゲン発現を抑制するのに対し、化合物スクリーニングから見いだされたHSP47 inhibitorはHSP47蛋白発現には直接影響を及ぼさず、シャペロン機能を抑制することによりI型コラーゲン産生を抑制することが示された。また、HSP47 inhibitorは線維芽細胞の増殖やmigrationを抑制することが示された。これらの結果から、HSP47 inhibitorはIPFの治療薬候補となり得ることが示された。これらの結果は英文論文として報告した（Biochem Biophys Res Commun 2020: 530(3): 561-565）。
近年、癌間質の線維芽細胞が癌の増殖・浸潤に促進的役割を果たしていることが注目されている。そこで、肺癌切除標本でのHSP47発現を免疫組織学的に検討し、癌間質の線維芽細胞におけるHSP47発現とその後の予後との関連を検討した。多変量解析により、癌間質の線維芽細胞におけるHSP47発現はその後の再発リスク因子であることが明らかとなった。これらの結果は英文論文として報告した(Respir Res 2020: 21(1):234.)

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

HSP47 inhibitorの効果を検証した結果として、英文論文として結果を報告した（1. Miyamura T, Sakamoto N, Kakugawa T, et al. Biochem Biophys Res Commun 2020: 530(3): 561-565）。
また、臨床面でも肺癌での癌間質の線維芽細胞におけるHSP47発現はその後の再発リスクとして有意な独立したリスク因子であることを明らかとし、英文論文として報告した(2. Miyamura T, Sakamoto N, Ishida K, Kakugawa T, et al. Respir Res 2020: 21(1):234.)
以上の結果は、順調に研究が進展していることを意味する。

今後の研究の推進方策

上記のような結果をもとに、細胞、動物モデルを使用した研究を行う予定である。HSP47 siRNAやHSP47 inhibitorが癌間質の線維芽細胞や癌細胞に与える影響をさらに検討していく予定である。

次年度使用額が生じた理由

HSP47 inhibitorを用いたin vitro検討および臨床的検討は順調に進んでいるが、動物モデルでの検討が遅れている。
今後、細胞、動物モデルを使用した研究に使用予定である。

研究成果

• [雑誌論文] Prediction of Anti-Cancer Drug-Induced Pneumonia in Lung Cancer Patients: Novel High-Resolution Computed Tomography Fibrosis Scoring. (2020)
  • 著者名/発表者名: Hiroshi Gyotoku, Hiroyuki Yamaguchi, Hiroshi Ishimoto, Shuntaro Sato, Hirokazu Taniguchi, Hiroaki Senju, Tomoyuki Kakugawa, Katsumi Nakatomi, Noriho Sakamoto, Minoru Fukuda, Yasushi Obase, Hiroshi Soda, Kazuto Ashizawa, Hiroshi Mukae
  • 雑誌名: J Clin Med 巻: 9(4) ページ: 1045
  • DOI: 10.3390/jcm9041045.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Comparison of lung microbiota between antineutrophil cytoplasmic antibody-associated vasculitis and sarcoidosis. (2020)
  • 著者名/発表者名: Shoichi Fukui, Shimpei Morimoto, Kunihiro Ichinose, Shota Nakashima, Hiroshi Ishimoto, Atsuko Hara, Tomoyuki Kakugawa, et al.
  • 雑誌名: Sci Rep 巻: 10(1) ページ: 9466
  • DOI: 10.1038/s41598-020-66178-4.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] A Novel Role of Growth Differentiation Factor (GDF)-15 in Overlap with Sedentary Lifestyle and Cognitive Risk in COPD (2020)
  • 著者名/発表者名: Tsunahiko Hirano, Keiko Doi, Kazuto Matsunaga, Tomoyuki Kakugawa et al.
  • 雑誌名: Journal of Clinical Medecine 巻: 9(9) ページ: E2737
  • DOI: 10.3390/jcm9092737.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Small molecule inhibitor of HSP47 prevents pro-fibrotic mechanisms of fibroblasts in vitro. (2020)
  • 著者名/発表者名: Takuto Miyamura, Noriho Sakamoto, Tomoyuki Kakugawa, Hirokazu Taniguchi, Yoshiko Akiyama, Daisuke Okuno, Sakiko Moriyama, Atsuko Hara, Takashi Kido, Hiroshi Ishimoto, Hiroyuki Yamaguchi, Taiga Miyazaki, Yasushi Obase, Yuji Ishimatsu, Yoshimasa Tanaka, Hiroshi Mukae
  • 雑誌名: Biochem Biophys Res Commun 巻: 530(3) ページ: 561-565
  • DOI: 10.1016/j.bbrc.2020.07.085. Epub 2020 Aug 1.
  • 査読あり
• [雑誌論文] Presence of heat shock protein 47-positive fibroblasts in cancer stroma is associated with increased risk of postoperative recurrence in patients with lung cancer (2020)
  • 著者名/発表者名: Takuto Miyamura, Noriho Sakamoto, Kaori Ishida, Tomoyuki Kakugawa, Hirokazu Taniguchi , Yoshiko Akiyama, Daisuke Okuno, Atsuko Hara, Takashi Kido, Hiroshi Ishimoto, Takuro Miyazaki, Keitaro Matsumoto, Tomoshi Tsuchiya, Hiroyuki Yamaguchi, Taiga Miyazaki, Yasushi Obase, Yuji Ishimatsu, Takeshi Nagayasu, Hiroshi Mukae
  • 雑誌名: Respiratory Research 巻: 21(1) ページ: 234
  • DOI: 10.1186/s12931-020-01490-1.
  • 査読あり / オープンアクセス