特発性肺線維症の急性増悪は予後に大きくかかわるイベントだが、確立された治療法がなく、経験的に副腎皮質ステロイドが用いられるが、ステロイドのみでは制御しきれないこともしばしばである。特発性肺線維症の病態には、小胞体ストレスのかかった肺胞上皮細胞がベースにあり、感染、抗癌剤、放射線などの外的因子による更なるストレスがかかると急性増悪が生じる。急性増悪の発症は、肺胞上皮細胞のバリア機能障害が契機になるのではないかと考え、小胞体ストレス誘導体であるtunicamycinや、急性増悪を起こす肺癌治療薬のEGFR-TKI(gefitinib)によるラット肺胞上皮細胞のバリア機能への影響を検討した。しかし、15回以上実験を繰り返し、tuniamycinやgefitnibのバリア機能への影響を濃度やtime-courseを変更して行ったが、安定した結果が得られなかった。そこで、急性増悪を起こす刺激を放射線照射に変更し、放射線照射はバリア機能を障害する方向へ一定して働くことが確認できたため、その状況に治療薬であるステロイドを加えてバリア機能を評価した。バリア機能には、肺胞腔内へ過剰な水分の漏出を防御する物理的バリアと、肺胞腔内の過剰な水分の能動輸送によるバリアがあるが、ステロイドは、過剰水分の能動輸送によるバリア機能は促進させるが、物理的バリア機能はむしろ低下させてしまう可能性があることが判明してきた。また、マクロファージが急性増悪の病態にかかわっており、感染症も急性増悪を引き起こすため、ラット肺胞上皮細胞とマクロファージの共培養システムをLPSで刺激し、そこにステロイドを投与したモデルも作成し網羅的にマイクロアレイで変動遺伝子を解析した。これらの研究結果からステロイドによる利点と欠点を解明することは、急性増悪の治療法を進化させる可能性があり、我々の今後の研究課題となっている。
|