研究課題/領域番号 |
18K08157
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
青柴 和徹 東京医科大学, 医学部, 教授 (60231776)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 特発性肺線維症 / 炭酸脱水素酵素 IX / 線維芽細胞 / アスドーシス |
研究実績の概要 |
肺線維症における酸性環境に対する肺線維芽細胞の耐性機構を解明し、耐性因子と考えられる炭酸脱水素酵素(carbonic anhydrase: CA) IXの阻害薬を用いた治療法を開発することを目的として研究を行った。肺癌手術時に採取された特発性肺線維症(IPF)患者、COPD (気腫肺) 患者および対照患者の肺組織から薄切切片を作成し、抗CA IX抗体との2重免疫組織染色を行い、IPFにおけるCA IXの発現細胞の同定を試みた。抗CA IX抗体との2重染色に用いる1次抗体として抗間葉系細胞マーカー(抗P4HB、抗S100A4、抗α-smooth muscle actin、抗vimentin)、抗細気管支上皮クララ細胞マーカー(抗CC10)、抗血管内皮細胞マーカー(抗CD31)、抗マクロファージマーカー (抗CD68) 、抗汎白血球抗体 (抗CD45)を用いた。CA IX陽性細胞はIPF患者肺の線維化組織に多数認められ、その陽性シグナルはCA IXブロッキングペプチドの添加により消失したことから特異的シグナルと考えられた。一方、健常肺組織やCOPD肺組織ではCA IX陽性細胞はほとんど認められなかった。そこでIPF肺組織を用いて抗CA IX抗体との2重染色を施したが、上記のいずれの抗体とも反応性が認められず、CA IX陽性細胞の細胞腫の同定には至らなかった。またブレオマイシン肺線維症マウスの肺組織を用いて抗CA IX抗体との2重染色を行ったが、CA IX陽性細胞を同定できる特異的染色が認められなかった。また肺線維芽細胞を低酸素 (0.5~1%)条件下で培養したが、CA IXの発現やCA IX阻害薬による増殖抑制効果は明らかではなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予想ではIPF患者肺の間葉肺組織にCA IX陽性細胞が多数認められたために、IPF肺組織の線維芽細胞がCA IXを発現して酸性微小環境に耐性化していると考えた。しかしながら間葉系細胞マーカー、炎症細胞マーカーなどのさまざまな細胞マーカーを用いて2重染色を行い、CA XI陽性細胞の同定を試みたが、これまでのところ細胞の同定には至っていない。マウスのブレオマイシン肺線維症モデルを用いた研究においても同様の結果であった。CA IXシグナルはブロッキングペプチドにより消失することから特異的シグナルと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
抗CA IX染色を施した組織標本を観察する中で、線維化組織を被覆する上皮細胞にも陽性シグナルが認められることに気がついた。これまでの実験でCA IX阻害薬 (U-104)の投与によりブレオマイシン肺線維症が抑制されたことから、CA IXが肺線維症の発症や進行に関わっていると考えられるが、間葉系細胞ではなく、上皮細胞におけるCA IXが肺線維症の病態に関わっている可能性が出てきた。そこで抗肺胞上皮細胞マーカー(抗SP-C、抗aquaporin-5、抗pan-cytokeratin、抗epithelial membrane antigen、抗CD44V、抗β4インテグリン)との2重染色を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗体などの購入にあたり、端数による次年度使用額が生じたが、次年度における抗体、試薬類と合わせて使用する予定である。
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