肺線維症における酸性環境に対する肺線維芽細胞の耐性機構を解明し、耐性因子と考えられる炭酸脱水素酵素(carbonic anhydrase: CA) IXの阻害薬を用いた治療法を開発することを目的として研究を行った。肺癌手術時に採取された特発性肺線維症(IPF)患者、COPD (気腫肺) 患者および対照患者の肺組織から薄切切片を作成し、抗CA IX抗体との2重免疫組織染色を行い、IPFにおけるCA IXの発現細胞の同定を試みた。抗CA IX抗体との2重染色に用いる1次抗体として抗間葉系細胞マーカー(抗P4HB、抗S100A4、抗α-smooth muscle actin、抗vimentin)、抗細気管支上皮クララ細胞マーカー(抗CC10)、抗血管内皮細胞マーカー(抗CD31)、抗マクロファージマーカー (抗CD68) 、抗汎白血球抗体 (抗CD45)を用いた。CA IX陽性細胞はIPF患者肺の線維化組織の間葉系細胞に多数認められ、その陽性シグナルはCA IXブロッキングペプチドの添加により消失したことから特異的シグナルと考えられた。一方、健常肺組織やCOPD肺組織ではCA IX陽性細胞はほとんど認められなかった。そこでIPF肺組織を用いて抗CA IX抗体との2重染色を施したが、上記のいずれの抗体とも反応性が認められなかった。またブレオマイシン肺線維症マウスの肺組織を用いて抗CA IX抗体との2重染色を行ったが、CA IX陽性細胞を同定できる特異的染色が認められなかった。以上の結果から、CA IX阻害薬の投与によりブレオマイシン肺線維症が抑制されることが確認され、またヒトIPF組織でのCA IX陽性間葉系細胞が多数認められた。
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