研究課題/領域番号 |
18K08159
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
水村 賢司 日本大学, 医学部, 兼任講師 (20761688)
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研究分担者 |
権 寧博 日本大学, 医学部, 教授 (80339316)
丸岡 秀一郎 日本大学, 医学部, 准教授 (80599358)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | COPD / ネクロプトーシス / ミトコンドリアDNA / 鉄代謝 |
研究実績の概要 |
本研究では、COPDの病態を明らかにするために、タバコ煙暴露による肺上皮細胞からのミトコンドリアDNAの細胞外放出のメカニズムと気道炎症への関与を解明し、診断・治療応用への研究基盤を確立することを目的としている。本研究グループは、予備実験として、タバコ煙抽出液処理により肺上皮細胞株Beas 2B細胞内でミトコンドリアDNAがミトコンドリアから細胞質に放出されることを確認しているが、今回、細胞質に放出されたミトコンドリアDNAが細胞外に放出されるかを検討した。肺上皮細胞株Beas 2B細胞にタバコ煙抽出液5%を6時間処理すると、細胞上清中のミトコンドリアDNAが有意に上昇し、タバコ煙暴露は肺上皮細胞からのミトコンドリアDNA放出を誘導することが示唆された。 以前、本研究グループは、タバコ煙暴露によるネクロプトーシス誘導にミトコンドリア損傷が関与していることを報告しているが、タバコ煙がミトコンドリア損傷を起こすメカニズムは明らかではなかった。本研究では、タバコ煙によるミトコンドリア損傷への鉄代謝機構の関与を検討した。鉄キレート剤DFO(Deferoxamine)存在下では、肺上皮細胞株Beas 2B細胞におけるタバコ煙抽出液によるミトコンドリア膜電位の低下やミトコンドリアROSの放出は抑制され、鉄代謝はタバコ煙によるミトコンドリア損傷を制御している可能性が示唆された。 さらに鉄代謝が、ミトコンドリアDNAの細胞外放出に関与するかを検討した。鉄キレート剤DFO は、タバコ煙抽出液刺激による肺上皮細胞外へのミトコンドリアDNA放出を抑制し、タバコ煙によるミトコンドリアDNAの細胞外放出にも鉄代謝が関与していることが示唆された。本年度以降は、ミトコンドリアDNAの細胞外放出メカニズムとして鉄代謝がネクロプトーシスに関与するかを検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、研究期間内に、I. 肺胞上皮細胞におけるタバコ煙抽出液によるミトコンドリアDNAの細胞質放出メカニズム、II. タバコ煙抽出液によるミトコンドリアDNAの細胞外放出とネクロプトーシスについて、III. ミトコンドリアDNAの肺胞上皮細胞での炎症メカニズムの解析、IV. ミトコンドリアDNAのマウス経気道投与と気道炎症メカニズムの解析、V. COPD患者の血清中ミトコンドリアDNAと臨床経過・呼吸機能検査との比較検討、を行うこと目標としている。 初年度は、主に、I. 肺胞上皮細胞におけるタバコ煙抽出液によるミトコンドリアDNAの細胞質放出メカニズムを中心に検討を行い、以下の研究結果を得た。a. 肺上皮細胞株Beas 2B細胞にタバコ煙抽出液5%を6時間処理すると、細胞上清中のミトコンドリアDNAが有意に上昇し、タバコ煙暴露は肺上皮細胞からのミトコンドリアDNA放出を誘導することが示唆された、b. 鉄キレート剤DFO(Deferoxamine)存在下では、肺上皮細胞株Beas 2B細胞におけるタバコ煙抽出液によるミトコンドリア膜電位の低下やミトコンドリアROSの放出は抑制され、鉄代謝はタバコ煙によるミトコンドリア損傷を制御している可能性が示唆された、c.鉄キレート剤DFO は、タバコ煙抽出液刺激による肺上皮細胞外へのミトコンドリアDNA放出を抑制し、タバコ煙によるミトコンドリアDNAの細胞外放出にも鉄代謝が関与していることが示唆された。これらの結果は、肺胞上皮細胞におけるタバコ煙抽出液によるミトコンドリアDNAの細胞質放出メカニズムについて新たな知見を与えるものであり、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に得た研究成果を元に、ミトコンドリアDNAの細胞外放出メカニズムとして鉄代謝がネクロプトーシスに関与するかを検討していく予定である。具体的には、ネクロプトーシス阻害薬を中心に細胞実験や動物実験を計画していたが、鉄キレート剤DFOも併用して実験を行うことを予定している。特にマウスモデルに関しては、エラスターゼ誘発COPDモデルマウスも用いることを考えている。エラスターゼ誘発COPDモデルマウスに鉄キレート剤DFOを投与し、マウスの気管支肺胞洗浄液(BALF)、肺組織(ホルマリン固定)を採取する。BALF中のミトコンドリアDNA量を定量し、肺組織では肺の気腫化を平均肺胞間距離を測定することにより定量化する予定である。
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