研究実績の概要 |
肺癌が神経内分泌細胞様に分化する機構として、神経分化に関与する転写因子ASCL1とNEUROD1が小細胞肺癌において発現上昇し、細胞生存を維持することが報告されている(Osada et al., Cancer Res 2005;Borromeo et al., Cell Reports 2016)。これら転写因子は下垂体発生においてPAX6とLHX3の下流に位置し、より分化した細胞で発現する(Prince et al., Nat Rev Endocrinol. 2011)。本年度、我々は小細胞肺癌16細胞株においてこれら4つの転写因子の発現量を調べ、二つの小細胞肺癌株(SBC3、SBC5)では2次元培養においてASCL1,NEUROD1,POMCが全く発現せず、下垂体初期の転写因子(OTX2、PAX6、LHX3)を高発現することを見出した。しかし、低接着プレートを用いた3次元培養では、これら細胞株でもASCL1,NEUROD1, POMCの発現が誘導され、多くの小胞が形成された。この小胞は胚性幹細胞からin vitroで下垂体を分化させるときに観察されるラトケ嚢様小胞に類似している(Ozone et al., Nature Commun 2016)。ラトケ嚢は個体発生において、口腔外胚葉が下垂体前葉に分化する時に現れる構造であり、小細胞肺癌の細胞塊に現れた小胞も、このラトケ嚢に類似した機能を持つ小胞ではないかと考えた。またOTX2 siRNAによる発現抑制によりMYCNの発現低下が見られることから、小細胞肺癌の分化・脱分化過程ではOTX2によるMYCNの発現制御が重要な役割を持つ可能性が見出された。
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