研究課題/領域番号 |
18K08166
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
市川 朋宏 東北大学, 大学病院, 助教 (20405450)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 気道上皮細胞 / 気管支喘息 / 上皮バリア機能 / ミトコンドリア新生 / 脱アセチル化酵素 |
研究実績の概要 |
気管支喘息の発症、増悪の原因となる吸入アレルゲンが気道上皮障害を引き起こし、バリア機能が破綻する、そのメカニズムの解明のために本年も昨年に引き続き研究を行った。昨年度は代表的な吸入アレルゲンであるダニ抗原抽出液(house dust mite: HDM)が気道上皮系のcell lineであるBEAS-2B細胞のおけるE-cadherinやZO-1などの結合蛋白を減少させるが、同時にミトコンドリア新生マーカーである(peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alpha) PGC1α, (mitochondrial transcription factor A) TFAMの発現が低下した。これら蛋白の低下はウエスタンブロッティング(WB)法および免疫染色法で確認できている。 PGC1αは脱アセチル化やおよびリン酸化により活性化されるが、本年度は脱アセチル化酵素であるSRT1720の効果を検討した。SRT1720によりBEAS-2B細胞の核内のPGC1αのタンパク量が増加し、ミトコンドリア新生が亢進することが示された。SRT1720で前処理したBEAS-2BにHDMを投与すると、結合蛋白の減少が有意に予防されることをWB法および免疫染色法にて確認した。バリアに関与する蛋白だけでなく、機能も確認するため経上皮抵抗(TEER)も測定した。TEERはBEAS-2Bでは発生しないため、プライマリヒト気道上皮細胞を用いて検討した。HDMによりTEERは減少するが、SRT1720によりTEERの減少が予防された。以上よりSRT1720により、HDMで惹起される気道上皮細胞のバリア蛋白の減少および機能の破綻がミトコンドリア新生の亢進を介して予防されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
気管支喘息患者検体で確認されていた、気道上皮細胞におけるミトコンドリア新生のマーカーの低下のメカニズムを解明するために今回検討を行っている。代表的な吸入アレルゲンであるHDMを用いて、また新たなメカニズムとしてミトコンドリア新生に着目して検討を行っている。HDMにおるミトコンドリア新生の低下が培養細胞系で昨年確認できていたが、本年度はさらにミトコンドリア新生の主要なシグナル因子であるPGC1αの活性に着目し検討を行った。脱アセチル化酵素SRT1720によりHDMのバリア障害が緩和できる可能性が本年度の検討で示され、気管支喘息の新たな治療戦略となりうる可能性が示唆され、有望な結果が得られたと考えられる。 動物実験は検討中であり、若干予定より遅れているもののおおむね順調に進んでいると考えられ、動物実験でのデータが得られれば論文投稿予定としている。
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今後の研究の推進方策 |
培養細胞系で確認できたデータをもとに、動物実験で再現できるかどうかを次年度では確認したいと考えている。HDMをマウスに投与し肺におけるバリア蛋白の破綻とミトコンドリア新生の低下が個体レベルでみられるかどうか、さらにSRT1720によるバリア障害の予防効果がみられるかどうかも動物実験で確認する予定である。現在条件検討、プロトコール検討を重ねており、ほぼ条件は確認できており本年度は直ちに上記の検討が可能な状況である。動物実験データも合わせて論文化を目指したいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はほぼ予定通り研究用の試薬、物品等を購入し使用した。若干残額が発生したが、一万円以下でほぼ当初の予定通りの使用状況であり、次年度の申請額ともほぼ変わりないため、計画通りの使用で問題ないと考える。引き続き、研究を進めていく上で必要な試薬や、学会発表、論文投稿の費用として使用していく。
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