研究課題/領域番号 |
18K08167
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
兼平 雅彦 東北大学, 大学病院, 助教 (90374941)
|
研究分担者 |
大河内 眞也 東北大学, 事業支援機構, 講師 (40375035)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | COPD / 細胞老化 / リゾホスファチジン酸 |
研究実績の概要 |
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、加齢ともに発症率・重症度が上昇する代表的な疾患である。しかし、COPDと加齢の因果関係を分子レベルで詳細に解析した例は少ない。また、COPDの本態は慢性炎症と考えられているが,ステロイド剤などの抗炎症薬を用いても破壊された肺胞壁の修復はほとんど認められない。研究代表者は、COPDの病態の背景には、肺幹細胞の細胞老化による枯渇と、それに伴う肺の修復機構の破綻があると予想した。 研究代表者はこれまでに、骨髄間葉系幹細胞を用いた研究により、リゾホスファチジン酸(LPA)受容体サブタイプ3(LPAR3)をsiRNAでノックダウンすることで、細胞老化が促進されることを明らかにしてきた。本研究課題では、LPAR3ノックアウトマウス(LPAR3-/-)を用いて、COPDとLPAシグナル破綻による肺幹細胞の老化の関係を明らかにすることを目的とした。 COPDのモデルとして、ブタ膵エラスターゼ吸入による肺気腫を誘導した。その結果、LPAR3-/-は野生型マウス(WT)に比べて有意な肺コンプライアンスの上昇を認め、肺の気腫化が顕著であることが明らかとなった。同時に、LPAR3-/-の気管支肺胞洗浄液中には肺胞マクロファージを主体とする多数の炎症細胞の浸潤を認め、慢性炎症が遷延していることが示唆された。同時に、平均肺胞壁間距離(Lm)を測定したところ、顕著なLmの増大を認めた。このとこから、LPAR3-/-はWTに比べて重篤な肺胞壁の破壊が生じていることが示された。 これらの結果から、LPAR3-/-はWTに比べてより重度なCOPDの病態を呈することが明らかとなった。このことから、LPAR3シグナルは、肺においてCOPDの病態を制御する“gate keeper”であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LPAR3と呼吸器疾患との関連については、これまでに一切の報告がなかったが、本研究により、LPAR3-/-がブタ膵エラスターゼ吸入による肺気腫に高感受性であることが明らかとなった。この結果は、LPAR3と呼吸器疾患には何らかの関連があることを裏付けるもので、意義のあるものといえる。よって今後、更なる発展が期待されるものと思われる。 LPAR3-/-のメスは胎盤形成に異常があり、産仔数が少ないことが報告されていたことから、研究開始当初は、十分な数のマウスが確保できないことが懸念された。しかし、LPAR3+/-はWTと同等の産仔数であることから、解析に十分な数のマウスは確保できている。また、現在は上記の結果を足掛かりとし、LPAR3と加齢に伴う呼吸器疾患の関連を明らかにするために、老齢マウスを順次調整中であるが、LPAR3-/-はWTと同様に異常なく生育しており(12ヶ月齢)、解析を進める上での問題点は今のところ見当たらない。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、LPAR3-/-はWTに比べてブタ膵エラスターゼ吸入による肺気腫が重篤化することが明らかとなった。しかし、肺気腫はあくまでCOPDの病態の1つであることや、加齢との関わりについては解析できていないなどの問題点があった。 今後は、加齢に伴うCOPDとLPAシグナルの関連、ひいては肺幹細胞の細胞老化・枯渇との関わりを明らかにするため、加齢LPAR-/-ならびにWTを用いて実験を行う予定である。具体的には、加齢に伴う肺の気腫化をmicro-CTを用いて経時的に観察する。また、肺組織を単一細胞に分離し、肺幹細胞(CD31-, CD45-, CD34+, Sca-1+)の割合をフローサイトメトリーによって解析する。同時に、肺幹細胞をセルソーターにより分取し、細胞老化をテロメア長、コロニー形成能などを指標に評価する。また、肺幹細胞を3次元培養し、細胞塊(スフェロイド)を形成させたのち、I型肺胞上皮細胞、II型肺胞上皮細胞、ならびにクラブ細胞へ分化誘導することで、肺幹細胞の幹細胞性(ステムネス)を評価する。 一方で、COPD以外に、加齢に伴って増加する呼吸器疾患として、肺がんや誤嚥性肺炎が挙げられる。これらの疾患におけるLPAR3シグナルの関与を明らかにするため、A/J系統のマウスへ8世代以上戻し交配したLPAR3-/-とWTを作成する。それらのマウスへウレタンを投与し、肺がんの発症率を比較する予定である。また、誤嚥性肺炎のモデルとして、LPAR3-/-とWTへ塩酸を経気道投与し、肺炎の重篤度や炎症性サイトカイン量を比較する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった試薬の購入を見合わせた。翌年度に購入予定である。
|