研究実績の概要 |
肺MAC症に代表される非結核性抗酸菌症は、本邦で急増している呼吸器感染症であるが、既存の薬を併用しても効果が低く難治性である。難治性の一因として、非結核性抗酸菌が酸素条件下において特異的にバイオフィルムを形成する(Totani T. Sci Rep. 2017;7:41775)ことが考えられる。今回、主要な非結核性抗酸菌であるMycobacterium intracellulareに対して、トランスポゾンによる変異株ライブラリーの作成と次世代シーケンサーによる全ゲノムシーケンシングを組み合わせたトランスポゾンシーケンシング(TnSeq)を行い、全ゲノム規模で生存必須遺伝子およびバイオフィルム形成に特異的な必須遺伝子の同定を行った。 その結果、Mycobacterium intracellulareには、506の生存必須遺伝子が存在すること、そして、バイオフィルム形成には175遺伝子が必須であることが分かった。生存必須遺伝子には、gyrB, gyrA, embB, embA, inhA, dfrA, alr, rpoB, mmPL3などの既知の抗結核薬の標的遺伝子が多数含まれていた。そして、バイオフィルム形成に必須な代謝経路として、糖新生系、各種アミノ酸代謝、各種脂質代謝、マイコサイオール系、typeVII分泌システムなどが挙がってきた。これらの結果に対して、化合物や阻害薬を使った細菌学的実験を行い、遺伝子の必須性を確認した。今回同定した生存必須遺伝子群は、非結核性抗酸菌の薬剤標的となるため、肺MAC症に対する新しい治療薬の開発において重要な情報源となる。
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