研究課題
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は全身性疾患と認識され、多方面からの病態解明が進んでいる。しかし、COPDの中枢に関する検討は少なく、行動科学的な治療の介入を支持する神経生理学的基盤の構築はこれからの課題である。本研究は安静時磁気共鳴画像(fMRI)の手法を用いて、慢性的な呼吸困難を主症状にもつCOPDにおいて、情動に関連する脳領域間の機能的結合性を検証するものである。対照群である年齢が一致した健常高齢者30例およびCOPD20例において安静時fMRIの撮像を行い、左海馬を関心領域とし、左海馬と他の領域との接続性解析を行い、健常高齢者と比較した結果をこれまでに学会にて発表した。2021年度は論文化に向けて、COPDのfMRIの新規撮像を10例で実施し、接続性解析を試みる予定であった。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の流行下おける撮像実施が困難であった。そこで、2021年度はこれまでに得たデータを元により細かなデータ解析を行うこととし、COPD18例と年齢の一致し、COPDと同じ主観的データを持つ健常者24例において、安静時fMRIのデータと鬱スケールとの関連性を検討した。またCOPD内で安静時fMRIとCOPDアセスメントスケール(CAT)の関連性を検証した。鬱スケールはCOPDと健常者間でのグループ解析では有意差は見られないが、COPDでは楔前部と側頭葉の接続性の強さが弱いほど鬱傾向にあることがわかった。また楔前部と側頭葉の接続性はCATとも負の相関があり、COPDにおける楔前部と側頭葉との連結性が着目される。楔前部はエピソード記憶や空間イメージとも関連している部位であり、側頭葉は記憶の再生、保持に重要な脳部位である。この2つの領域の連関は、COPDでのMini-Mental State Examinationの低下とも結びつく可能性がある。
3: やや遅れている
2021年度年度にはCOPD症例10例の新規データ取得を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の流行のため、新規の撮像実施が困難であった。しかし、これまでに撮像したデータを元に解析を試みたところ、新知見を得ることができ、また次の解析の方向性を示すことができた。今年度は結果を踏まえて学会等で発表を予定である。
COPD症例のデータにもとづく論文作成には、症例のデータ増加が必要である。新型コロナウイルス感染症の状況を見極めつつ、COPD症例のデータを取得する。しかし、これ以上の症例増加が困難な場合は研究終了も考慮し、これまでに得られたデータをもとに研究を総括する。
新型コロナウイルス感染症の流行下おける撮像実施が困難であったため、目標症例数に到達できず、論文完成に至らなかった。また、学会出張のための旅費が発生しなかった。論文完成に向けた英文校正料、論文投稿料、論文掲載料での使用を計画している。
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