研究課題
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は全身性疾患と認識され、多方面からの病態解明が進んでいる。しかし、COPDの中枢に関する検討は少なく、行動科学的な治療の介入を支持する神経生理学的基盤の構築はこれからの課題である。本研究は安静時磁気共鳴画像(fMRI)の手法を用いて、慢性的な呼吸困難を主症状にもつCOPDにおいて、情動に関連する脳領域間の機能的結合性を検証するものである。対照群である年齢が一致した健常高齢者30例およびCOPD20例において安静時fMRIの撮像を行い、左海馬を関心領域とし、左海馬と他の領域との接続性解析を行い、健常高齢者と比較した結果をこれまでに学会にて発表した。2022年度はこれまでに得たデータを元により細かなデータ解析を行うこととし、COPD18例と年齢の一致し、COPDと同じ主観的データを持つ健常者24例において、不安感計測、鬱尺度計測を施行し、脳領域間の接続性との関係性を明らかにした。体性感覚や運動出力に関わる情報領域である中心傍回と中側頭回との接続性は鬱尺度に相関していることを示した。中心傍回は発話や随意呼吸とも関連があり、また中側頭回は長期記憶に関連する部位でもある。COPDの慢性的な呼吸困難により発話の困難さ、また随意的に呼吸をしているような感覚が長期に記憶されている可能性があり、その接続性の強さが鬱状態を引き起こす可能性が示唆される。本研究の結果は、2023年3月の日本生理学会大会にて発表(Resting-state fMRI connectivity analysis on psychiatric symptoms for COPD patients)を行い、現在論文を執筆中である。
2: おおむね順調に進展している
2022年度も新型コロナウイルス感染症の流行のため、新規の撮像実施を行わなかった。しかし、現在COPD患者のデータは18例であるものの、解析の結果がまとまる方向であったため、学会発表を行い、論文の執筆を行っている。
これ以上のCOPD患者症例増加は困難と判断し、これまでに得られたデータをもとに論文化し、研究を総括する。
新型コロナウイルス感染症の流行下おける撮像実施が困難であったため、論文完成に至らなかった。しかし、これまでに蓄積した症例での論文化に目処が立ち、論文完成に向けた英文校正料、論文投稿料、論文掲載料での使用を計画している。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件)
Brain and Behavior
巻: 13 ページ: -
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