2020年度までに実施した実験結果を踏まえ、雄Fisher 344系ラットにアミオダロンを経胃管的に連日投与してコントロール群、アミオダロン投与群の2群を作成し、右上葉を光学顕微鏡的形態観察用に10%中性緩衝ホルマリンにより25cmH2O圧での定圧肺固定を行い、アミオダロン肺障害の組織学的観察を行った。すなわち10%中性緩衝ホルマリンにより定圧肺固定を行った右上葉をパラフィン包埋後、5μmの厚さの切片に切り出し、ヘマトキシリン・エオジン染色を施し、光学顕微鏡で組織学的に観察した。アミオダロン経口投与群のラットでは肺胞壁の肥厚、炎症細胞の増加などが観察された。また肺胞マクロファージの泡沫状肥大化や肺胞Ⅱ型上皮細胞(Ⅱ型細胞)に相当する肺胞コーナー細胞の腫大など以前に得られた気管支肺胞洗浄液やII型細胞での細胞観察に一致する所見が得られた。これらの結果から本実験モデルでもアミオダロンによる臓器レベルでの肺障害を再現できたと考えられた。 2018年度より開始した本研究によりアミオダロン実験肺障害モデルにおいて以下の新知見が得られた。1)形態的にⅡ型細胞、層状封入体の大型化がみられた。2)単離Ⅱ型細胞におけるホスファチジルコリンの合成能が亢進していた。3)肺組織中のホスファチジルコリン のde novo合成酵素、リモデリング合成酵素ともmRNA発現が亢進していた。4)肺組織中サーファクタントプロテインmRNA発現量に差はなかったが、SP-AとSP-Dタンパク量は増加がみられた。以上の結果よりアミオダロン肺障害における肺組織中リン脂質過剰蓄積には従来知られていたリソソーマルホスフォリパーゼA2の抑制によるリン脂質分解低下のみならず、Ⅱ型細胞におけるリン脂質合成亢進が関与していることが示唆された。
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