本研究は肺動脈性肺高血圧症(PAH)における肺動脈新生内膜形成機序をテロメア維持機構との関連性から明らかにする研究である。申請者がこれまでにヒト肺動脈血管内皮細胞におけるRNA-sequencingを用いた遺伝子発現の網羅的解析から明らかにした重要な細胞機能維持機構である“テロメア機能維持”と肺動脈恒常性維持との関連性を検討した。本研究では独自に作成した血管内皮特異的にテロメア維持機構が破綻する遺伝子改変マウスであるTelomeric repeat-binding factor 2 優性阻害マウスを用いて検討を行った。Telomeric repeat-binding factor 2 優性阻害マウスでは3週間の低酸素負荷においてはコントロールマウスと比較して著明な肺高血圧と右室肥大を認めるとともに、肺組織像において肺小動脈の消失および筋性化が悪化することが明らかになった。また、VEGF受容体阻害薬+低酸素/再酸素化負荷(SU5416/Hx/Nx)による内皮障害刺激に対し、Telomeric repeat-binding factor 2 優性阻害マウスでは高度の肺小動脈消失を認め、室内気飼育においても肺高血圧および右室肥大が残存することが明らかになった。以上より、血管内皮テロメア維持機構は肺動脈障害における血管恒常性維持に非常に重要な役割を持つことが明らかになり、今後新たな血管恒常性維持メカニズムの解明に繋がるものと考えられる。
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