研究課題/領域番号 |
18K08203
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
糟野 健司 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (60455243)
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研究分担者 |
岩野 正之 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (20275324)
木村 秀樹 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 准教授 (20283187)
高橋 直生 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 助教 (30377460)
三上 大輔 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 助教 (90464586)
松本 英樹 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (40142377)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 急性腎障害 / 慢性腎臓病 / レドックス / チオレドキシン / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
急性腎障害の慢性移行(AKI-to-CKD transition)は診断法・治療法は確立しておらず大きな問題となっている。AKI-to-CKD transitionのメカニズムとして尿細管の細胞周期がG2/M停止し腎間質線維化をきたすことが示唆されている。これまで研究代表者は、 1) AKIにより多機能レドックス制御蛋白チオレドキシン(thioredoxin; TRX)が近位尿細管細胞から尿中に放出され枯渇すること、 2)TRXを逆に強制発現するとAKIが軽減することを発見してきた。 本研究ではレドックス破綻と細胞周期との関係に注目してAKI-to-CKD transitionの病態を解明している。 今回、培養尿細管細胞を用いてレドックス感受性G2/M制御因子Cdc25Cのレドックス破綻による影響を観察したところ、Cdc25Cのリン酸化がTRX還元酵素阻害剤の投与により容量依存的に減少することを発見した。さらにCdc25Cと共役するG2/MサイクリンCyclin B1も容量依存的に減少し、フロサイトメトリーにてG2/M停止細胞が用量依存的に増加した。siRNAを用いてTRXの発現を抑制させてもG2/M停止が起こることを観察した。一方、G1サイクリンCyclin D1はレドックス破綻による変化がなかった。 正常マウスを用いたin vivo実験では虚血再灌流障害の12時間後をピークに尿細管細胞内TRXが減少し、尿中TRX1が上昇し、これに同期してG2/M停止マーカーphospho-Histone H3陽性の尿細管細胞数が増加した。72時間後には尿細管細胞内TRXが上昇し尿中TRX1が減少するのに同期してphospho-Histone H3の陽性細胞数が減少した。以上より、AKI後の尿細管細胞のG2/M停止の情報が尿中TRX1を測定することにより得られることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
尿中TRXがAKI-toCKD transitionに関連したG2/M停止マーカーであることを突き止めることができ、特許を出願することができた(特願2018-66043)(PCT/JP2019/9522)。
研究過程で得られた尿中TRXに対し、可搬型迅速高感度評価系を開発し、分析的および臨床的検証を行い、良好な結果が得られたため論文投稿し、現在リバイス中である。
本研究過程からAKIによりTRX1が尿細管細胞内から細胞外(尿中)に放出され、細胞内TRX1が枯渇することによりレドックス依存的G2/M停止が生じることを発見した。このAKIによるレドックス依存的G2/M停止が尿細管細胞の修復障害をきたすことから、新たなAKI-to-CKD transitionのメカニズムであること解明した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果からAKIで枯渇したTRX1を補充することにより、レドックス依存的G2/M停止が解除され、尿細管修復が促進されてAKI-to-CKD transitionを治療できる可能性が示唆された。今後の研究では既知のTRX1誘導化合物の中から最も安全かつ有効に尿細管細胞内TRX1を過剰に発現できる化合物をスクリーニングし、AKI-to-CKD transition阻止に有効な治療法を開発する。 <In vitroスクリーニング> 尿細管上皮細胞を用い、TRX1誘導活性の高い化合物の候補をしぼる。TRX誘導作用のある候補薬剤について線維化促進サイトカイン(CTGF, TGF-β)を抑制するか確認する。線維化促進サイトカインの抑制作用はRT-PCRにてmRNAの誘導作用とウエスタンブロットあるいはELISAにて蛋白レベルの抑制作用を確認する。安全性の確認として細胞死への影響を観察する。がん抑制遺伝子p53への影響をリン酸化p53のウエスタンブロットで観察する。 <In vivoスクリーニング> まず、上記候補化合物がin vivoで腎臓の尿細管細胞内のTRX1誘導作用があることを確認する。虚血再灌流モデル、シスプラチン腎障害モデル、db/db糖尿病性腎臓病(DKD)モデルマウスなど複数のマウスでTRX1誘導化合物が腎臓の間質線維化を阻止できるか薬効試験を行う。生理食塩水を用いた群を対照群とする。腎臓の薄切標本をG2/M停止マーカーphospho-Histone H3で染色しG2/M停止の割合を対照群と比較する。
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