研究課題
腹膜透析(PD)患者において被嚢性腹膜硬化症(EPS) は最も重篤な合併症であり、PD療法の普及、および長期にわたるPD継続を妨げる主要な因子である。我々は長期PD患者の腹膜組織を解析し、これまで腹膜障害の病変の主体として考えられていた、腹膜線維化や血管新生よりむしろ血管障害がEPS発症に強く関連することを発見し、この血管障害こそがEPS進展に重要な役割を持つのではないかという仮説を提唱した。本研究はさらにEPS手術症例から得た腹膜組織を用いて、EPSを病理組織学的・分子生物学的に検討し、その進展機序を解明することを目的とした。EPS手術症例が全国から集積するあかね会土谷総合病院と共同研究を行い、EPSによる腸閉塞症状を呈し開腹手術、腸管癒着剥離術を施行した223症例において、手術時に採取されたEPSの腹膜組織検体283検体のうち、検体が評価に不十分なものを除いた174症例、214検体を評価対象とした。平均PD期間が128.1ヵ月、平均年齢56.0歳、初回手術が174例、再発手術が47例であった。EPS発症から手術まで平均期間は7.4ヵ月であった。我々がPLoS One 2016の報告で用いた方法にて組織学的検討を行った。酸性液(165例)と中性液(9例)の患者を比較すると、酸性液群は透析期間が有意に長く、中性液群では89%が腹膜炎罹患後のEPSであった、L/V ratioは酸性液群で有意に低値(血管障害が高度)であり、PD期間と相関していた。CD31は中性液群に多く、CD68陽性細胞数、腹膜肥厚に有意差はなかった。以上から酸性透析液では経年的に血管障害が進行しEPSへと至るのに対し、中性液では血管障害は軽くほとんどが腹膜炎からのEPSへと至っていた。EPS発症には酸性液と中性液では発症機序に違いを認め、酸性液ではEPS発症に血管障害が重要であることが明らかとなった。
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Nephrol Dial Transplant
巻: ー ページ: 1-9
10.1093/ndt/gfaa073