研究課題/領域番号 |
18K08216
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
森岡 与明 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (30382154)
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研究分担者 |
塩井 淳 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (90260801)
庄司 哲雄 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (40271192)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腎不全 / アデニン負荷 / 骨格筋萎縮 / オンコスタチンM / STAT3 |
研究実績の概要 |
(1)アデニン誘導性慢性腎臓病(CKD)モデルマウスにおけるサルコペニアとoncostatin M(OSM)の関連.C57BL/6マウスに対して通常食に0.2%アデニンを混餌し5週間飼育しCKD, 尿毒症を誘導した.アデニン群において通常食群に比して体重および下肢骨格筋量の減少,および骨格筋線維断面径の萎縮が見られた.筋組織の遺伝子・蛋白発現解析の結果,アデニン群は通常食群に比べatrogin-1, MuRF-1, myostatinの発現増強およびIGF-1の発現減弱を示した.さらに筋組織における炎症性サイトカインの発現解析の結果,アデニン群においてOSMおよびその受容体発現が増強する一方で,同ファミリーに属するIL-6およびLIFの発現は減弱した.以上の成績より,アデニン誘導性CKDマウスにおける骨格筋萎縮の機序として,筋組織レベルでの筋蛋白合成系の減弱,分解系の亢進および炎症性サイトカインの中でもOSMに特異的な作用亢進が示唆された. (2)培養筋芽細胞を用いたOSMの骨格筋における直接作用.C2C12マウス筋芽細胞をウマ血清により成熟myotubeを誘導後にOSMを添加し,24~48時間培養した.成熟したmyotubeにおいて,OSM添加後のSTAT3リン酸化の増強が見られ,非投与対照に比べ24~48時間後の細胞径の萎縮,MyoD, myogeninの発現減弱,およびatrogin-1, C/EBPδの発現増強が認められた.さらにOSMによるそれらの変化はSTAT3阻害剤(C188-9)の前処理あるいはsiRNAによるSTAT3のノックダウンにより有意に減弱した.本成績より,OSMが成熟myotubeにおいて,STAT3系を介して径の萎縮,筋分化増殖系の抑制,および筋蛋白分解系の促進に関与することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)アデニン誘導性CKDモデルマウスにおけるサルコペニアとoncostatin M(OSM)の関連.アデニン負荷CKDマウスにおけるPEW (protein-energy wasting), サルコペニアのモデルが確立された.同マウスにおいて骨格筋組織レベルでの筋分化・増殖系の減弱および筋蛋白分解系の亢進が確認された.さらに同マウスの骨格筋において,IL-6ファミリーの炎症性サイトカインの中でもOSMに特異的な作用亢進が示唆されており,当初の計画の方向性に沿った形で進められている. (2)培養筋芽細胞を用いたOSMの骨格筋における直接作用の解析:分化誘導後の成熟C2C12 myotubeにおいて,OSM添加後のSTAT3リン酸化の増強,細胞径の萎縮,筋分化増殖系因子の発現減弱,および筋蛋白分解啓因子の発現亢進が確認された.さらにSTAT3阻害剤(C188-9)の前処理あるいはsiRNA法によるSTAT3遺伝子のノックダウンにより,OSMによる上述の効果がSTAT3系を介していることが示唆された.ここまでの検討により,OSMが筋委縮作用を発揮する過程における細胞内シグナルとしてStat3の役割を明らかにすることができた. (3) 透析中CKD患者における血清OSM濃度と骨格筋量の解析:ODCS研究の参加者の中から骨格筋量測定データ,各種臨床パラメータ,および保存血清の状況につき確認作業を進めているところである.また血清OSM濃度測定にあたって,ELISAキットの選定および測定のための条件設定・予備検討を進めているところである.
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今後の研究の推進方策 |
(1)アデニン誘導性CKDモデルマウスにおけるサルコペニアとoncostatin M(OSM)の関連:アデニン負荷CKDマウス骨格筋において,OSM/OSM受容体の筋線維,血管系,間質における局在確認,および炎症細胞(単球・マクロファージ)についても評価する.さらに,当初の計画に加えてアデニン負荷によりCKDが誘導された後に通常食に戻し,CKD・サルコペニアが部分的に改善した後に骨格筋において起こる変化についても検討予定である. (2)培養筋芽細胞を用いたOSMの骨格筋における直接作用の解析:成熟したC2C12 myotubeにおいてOSMによる骨格筋萎縮の過程におけるSTAT3経路の重要性が明らかとなった.さらにSTAT3の下流においてC/EBPδ の果たす役割についてノックダウン法を用いて検討する.またOSMによる骨格筋タンパク合成系(mTOR, Akt/Foxo1)についても解析予定である. (3) 透析中CKD患者における血清オンコスタチンM濃度と骨格筋量の解析:ヒトの血清OSM濃度測定にあたり,ELISAキットの評価選定および測定の最適化を行い,本測定を進める.結果の妥当性を確認の上,臨床データの解析を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
オンコスタチンM血清濃度測定に関する予備検討および測定の最適化に予想より時間がかかっており,ELISAキットの購入分が残額となった.次年度に確実に使用予定である.
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