研究課題
全身のすみずみに酸素と栄養を運ぶ血管の内壁を構成する内皮細胞は組織によって特異な形態をとる。糸球体において内皮細胞は足細胞に面した領域では窓とよばれる小孔を有しており、基底膜を形成するが、メサンギウム細胞に面した領域では窓はなく、基底膜も欠損している。このように糸球体内皮細胞は場所により特徴的な形態の違いを示しているにも関わらず、これまで糸球体内皮細胞の領域特異性についての議論はされていない。代表者は糸球体を抗原として作製したモノクローナル抗体の1つであるクローンJ22が糸球体内皮細胞のメサンギウム基質に接した膜表面を特異的に認識することを見いだした。これは糸球体毛細血管を形成する内皮細胞が領域特異的に分子の発現を制御していることを初めて示すものであり、この抗原の解析を進めることで、内皮細胞の新たな機能を明らかにし、さらに新規の切り口で糸球体腎炎の病態を解析する基盤を形成することを目的とする。本年度は以下のような結果を得た。1)J22抗原の局在について:J22抗体を静注するとメサンギウム基質に面した内皮細胞の基底側に結合することから、内皮細胞の基底側膜表面にJ22抗原が露出していることが分かった。2)メサンギウム細胞との関わり:メサンギウム細胞は突起を延ばし内皮細胞と接触している。そこに関わる分子についていくつかの論文で報告しており(Kidney Int 2014, Lab Invest 2016)、それらの研究で見いだしたメサンギウム細胞と内皮細胞の接触部位に局在する分子であるl-afadinおよびbeta-cateninさらにeplin分子とJ22抗原との関係を検討した結果、いずれの分子とも共局在が明らかとなった。これらのことから、J22抗原はメサンギウム領域に面した腎糸球体内皮細胞基底側に存在し、メサンギウム細胞と内皮細胞の結合に関わる可能性が強く示唆された。
3: やや遅れている
この研究課題の初年度にあたる昨年4月に順天堂大学より大阪にある藍野大学へ移動したため、新たに研究室の立ち上げが必要となった。しかしながら6月18日に発生した大阪北部地震により研究室の建物が被害を受け、その後大雨や台風の被害を受けたため、研究室の整備が大幅に遅れることとなり、研究の開始が予定より遅くなった。昨年暮れまでには順天堂大学より凍結試料を含めた物品の移動も一部を除いてほぼ完了した。藍野大学では電子顕微鏡や実験動物施設を含め解析に必要な機器は準備されており、研究を開始している。本課題では血管の内腔を形成する内皮細胞が場特異的な分子の発現をしていることを新たに開発したモノクローナル抗体を用いて解析することを中心に研究を進める予定にしている。すでに、基礎的なデータは得られており、モノクローナル抗体の抗原がメサンギウム細胞と内皮細胞の相互作用に関わる重要な分子であることが明らかになりつつある。
次年度は以下のような研究を予定している。1)J22抗原分子の免疫電顕による局在の解析:これまでの研究により光学顕微鏡レベルでJ22抗原は腎糸球体内皮細胞とメサンギウム細胞が相互作用する領域に発現していることが明らかになっており、それをさらに裏付けるため、免疫電顕法により詳細な解析を行うこととする。免疫電顕法についてはこれまで多くの論文を発表しており、また新たに必要な資材も準備できており、施設を移動した後も安定して解析を行うことができる。2)メサンギウム細胞を特異的に傷害するモノクローナル抗体E30(代表者らによって開発されたもの)を用いて、メサンギウム細胞傷害時のJ22抗原の局在および発現の変化を免疫組織化学とイムノブロット法により解析を行う。さらにE30腎炎においてメサンギウム細胞傷害後におこる異常なメサンギウム細胞増殖とその後の回復期(メサンギウム傷害が起こると糸球体毛細血管網が壊れるが、抗体投与8日後ごろから内皮細胞とメサンギウム細胞の相互作用により糸球体毛細血管網の再構築が起こることを以前Kidney Intに報告している)においてJ22抗原の局在と発現がどのように変化するかを抗体投与後1日、3日、5日、8日後にラット腎を摘出し、解析を行うこととする。これらの解析により、J22抗原の機能的な意義と病態時における変化が明らかになることが期待できる。3)J22抗原についての分子解析:J22抗原分子を明らかにするために、J22モノクローナル抗体を用いた免疫沈降法により分子の単離を試みる。本年度は効率良く分子が回収されるdetergentの検討から開始することとする。次年度(令和元年)はこれまでに得られた所見を中心に学会発表(9月に行われる日本臨床分子形態学会を予定している)を行う予定である。
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