研究課題
全身のすみずみに酸素と栄養を運ぶ血管の内壁を構成する内皮細胞は組織によって特異な形態をとる。糸球体において内皮細胞は足細胞に面した領域では窓とよばれる小孔を有しており、基底膜を形成するが、メサンギウム細胞に面した領域では窓はなく、基底膜も欠損している。このように糸球体内皮細胞は場所により特徴的な形態の違いを示しているにも関わらず、これまで糸球体内皮細胞の領域特異性についての議論はされていない。申請者は糸球体を抗原として多くのモノクローナル抗体を作製して おり、その一つのクローンJ22が糸球体内皮細胞のメサンギウム基質に接した膜表面を特異的に認識することを見いだした。これは糸球体毛細血管を形成する内皮細胞が領域特異的に分子の発現を制御していることを初めて示すものであり、この抗原の解析を進めることで、内皮細胞の新たな機能を明らかにし、さらに新規の切り口で糸球体腎炎の病態を解析する基盤を形成することを目的とする。本年度は以下のような結果を得た。J22抗原のシグナルがメサンギウム細胞と内皮細胞の接着部位に存在するafadinやβ-cateninと共局在することを免疫組織化学により明らかにした。これまでの研究から、メサンギウム細胞増殖性腎炎のモデルであるThy1.1腎炎において一度壊れた糸球体毛細血管網が再生していく過程で、メサンギウム細胞が重要な役割を演じていることを明らかにしている。特に、メサンギウム細胞が突起を延ばして内皮細胞基底膜を牽引することが血管網の再生に必要である。J22抗原は、このメサンギウム細胞の突起形成部位に隣接する内皮細胞に存在していることを見いだした。これらのことから、J22抗原は、メサンギウム細胞と内皮細胞の接着に重要な役割を持ち、腎炎発症後の糸球体の再構築に関わる分子である可能性がある。
3: やや遅れている
遅れていた機器のセットアップのため、新たに液体窒素タンクを購入し、一部前任校に残していた液体窒素に保存している試料の移動が完了した。今年度は、J22抗原の局在について、さらに解析を進めた結果、内皮細胞基底側膜に存在するJ22抗原がメサンギウム細胞と内皮細胞の接着に関わる分子であり、糸球体血管網の構築に重要な働きを持つ可能性を示すことができた。これらの結果について、臨床分子形態学会にて報告することができた。
糸球体におけるJ22抗原の役割が明らかになってきており、腎臓における糸球体内皮細胞に発現することが分かっている分子と異なり、新規の分子である可能性が高く、この研究が極めて重要であることは明白である。そのため、この抗原分子の単離は必須であり、J22抗体を用いた免疫沈降法を試みている。抗原分子の組織からの溶出条件の検討を含め、抗原の単離に向けて研究を進めていく。また、肺胞毛細血管の間質側の内皮細胞にのみ発現することが分かっているI-10抗原についても、同時に研究を進めている。この分子が間質性肺炎発症に何らかの影響を及ぼしている可能性についても動物モデルを用いて研究を進めていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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