研究課題/領域番号 |
18K08226
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松田 裕之 日本大学, 医学部, 助教 (10646037)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | HCaRG / COMMD5 / 急性腎障害 / 尿細管上皮細胞 / E-cadherin |
研究実績の概要 |
Hypertension-related, calcium-regulated gene(HCaRG/COMMD5)は腎臓の尿細管に発現しており、障害を受け脱分化した尿細管上皮細胞の間葉上皮移行を促し、尿細管の修復を促進し、腎障害後の生存率を改善させることを見出していた。また、正常尿細管上皮細胞から分泌されたHCaRGタンパクが癌細胞のEGFRを含むErbB受容体ファミリーの発現を抑制し、増殖を抑制している可能性が示唆されていた。 今回、内因性HCaRGが、細胞骨格の構成因子であるアクチンとRab5に結合し、EGFRの細胞内輸送及びリサイクリングをコントロールしていることを報告した。次に、培養尿細管上皮細胞にシスプラチン暴露を行い、HCaRGの細胞保護メカニズムを検討した。HCaRGは、シスプラチン暴露下の尿細管上皮細胞において、速やかにp21の発現を増強させた。続いて、E-cadherinの発現はp21に遅れて発現のピークを迎えた。本実験において、p21の転写因子の一つであるFoxOタンパクのリン酸化が抑制され、Total FoxOのタンパク量は増加していた。HCaRGを抑制したところ、核内FoxOのリン酸化により、FoxOの分解が亢進し、p21の低下によりE-cadherinの発現が低下した。このHCaRGをノックダウンした尿細管上皮細胞のタイトジャンクション機能を電気抵抗指数を用いて測定してところ、HCaRGの抑制により低下していた。これらの知見から、HCaRGは、E-cadherinの発現を増加し、アドヘレンスジャンクションやタイトジャンクションによる細胞間接着構造を増強し、尿細管上皮バリアー機構を強化することにより、薬剤暴露による腎障害を予防する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞実験に引き続き行った近位尿細管特異的HCaRG高発現遺伝子改変マウスを使った動物実験では、シスプラチン投与後の腎機能障害だけでなく、尿細管組織障害や細胞死も野生型マウスに比べHCaRG高発現マウスで有意に軽減されていた。細胞実験で確認したE-cadherinの発現は、特にHCaRG高発現マウスの遠位尿細管で保たれていた。さらに、各尿細管セグメントの遺伝子発現を解析したところ、HCaRGは近位尿細管だけでなく遠位尿細管の障害も抑制しており、野生型マウスではKlothoなどの遠位尿細管由来の腎保護因子が低下していたが、HCaRG高発現マウスでは保たれていた。以上より、近位尿細管におけるHCaRGは、直接近位尿細管上皮細胞の保護・修復を促進するだけでなく、パラクリン機構により遠位尿細管の障害を軽減し、尿細管相互作用による恒常性の維持に寄与し、腎障害の進展を抑制しているのではないかという新たなる仮説が考えられた。 また、HCaRGを遺伝子導入した尿細管上皮細胞に一過性の過酸化水素暴露を行い、細胞死やオートファジーに与える影響について検討した実験では、コントロール細胞において曝露12時間後までオートファジーが遅延し、細胞死が増加していたが、HCaRGは曝露後3時間以内に速やかにオートファジー現象を終息させ、ATP産生などミトコンドリア機能を保護し、細胞生存率を改善していた。このことから、HCaRGは過剰なオートファジーを介した細胞死を抑制し、尿細管上皮細胞を保護しているのではないかという新たなる可能性も示唆された。 今後、HCaRGを中心とした尿細管相互作用やオートファジー制御メカニズムを明らかにし、学会や学術論文を通して発表していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
HCaRGを中心とした尿細管相互作用を検討するために、近位尿細管におけるHCaRGコンディショナルノックアウトマウスを、タモキシフェン誘導性Creを発現するNDRG-1 CreERTノックインマウスとHCaRG floxedマウスにより作製し、近位尿細管のHCaRGを特異的にノックダウンした際に、近位尿細管のバリアー機構はどのように変化するのか、遠位尿細管の障害は悪化するのかどうかを病態モデルを用いて検証する。 HCaRGは、アクチンやRab5と相互作用を持っていることを報告しているが、HCaRGの相互因子や受容体の存在など、まだ明らかになっていない点は多い。今回、HCaRGの関わる新たな伝達経路を明らかにする目的で、ヒトHCaRG-Flagタグ合成タンパク発現プラスミドを作製し、HCaRGの相互因子の探索を行った。HEK293細胞に遺伝子導入をし、免疫沈降と質量分析を行ったところ、HCaRGの結合タンパクの候補として新たに23のタンパクが同定された。その中にはHCaRG以外のCOMMDファミリーや、細胞内輸送に関わるタンパク複合体、遺伝子制御に関わる核内分子などが含まれており、今後、細胞内でのHCaRGとの結合や相互作用を検討して行く予定である。 また、残腎機能を評価するためのバイオマーカー、及び腎細胞癌の予後予測因子や、術後の腎細胞癌の再発リスクを評価するバイオマーカーとしての有用性を検討するため、日本大学医学部付属板橋病院と研究協力施設において、腎機能障害の患者及び、腎癌にて手術を受けた患者約130名の同意を得、血液・尿検体を確保した(臨床研究RK-170912-4)。次年度は、これらのヒト検体を用いてHCaRGタンパクの測定を行い、臨床上の有用なバイオマーカーとして可能性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 現在、モントリオール大学から授受されたHCaRG高発現遺伝子改変マウスを用いて、急性腎障害モデルを作製し、実験を実施している。しかし、当初の計画にあるHCaRGコンディショナルノックアウトマウスの作製に時間がかかり、繁殖数や飼育数に相違が生じたため次年度使用額が生じた。 (使用計画) 共同研究機関よりタモキシフェン誘導性Creを発現するNDRG-1 CreERTノックインマウスの供給を受ける予定であり、HCaRGコンディショナルノックアウトマウスの系統を樹立した後に、急性腎障害モデルであるシスプラチン腎症や腎虚血再還流モデルを作製し、HCaRGの腎保護メカニズムを検証する予定である。そこで、翌年度分として請求した助成金と合わせて実験動物の飼育、及び病態モデル動物の免疫組織や遺伝子発現を解析するために必要な消耗品の購入等に充てる。
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