本研究では、口蓋扁桃深部陰窩に存在する細菌叢に対するIgA分子の反応性を解析し、IgA腎症患者ではコントロールとした習慣性扁桃炎患者よりもバクテロイデテス門細菌に対してIgAが結合している割合が多いことを確認した。このIgA反応性の分子基盤を解明するために扁桃陰窩サンプルを用いて、IgA分子の可変領域を対象としたレパトア解析を行なった。扁桃陰窩サンプルからRNAを抽出し、cDNAライブラリを作成後、IgA分子のIGHVを対象としてアダプター結合PCRを行なった。次世代シークエンサーで可変領域の配列を決定した。IgA腎症患者と習慣性扁桃炎患者でIgA1とIgA2の発現量、および多様性指標に有意な差は認められなかったが、可変領域の各レパトアの相対存在比は、IgA腎症患者で IGHV3-30および3-38が有意に高かった。IGHV3-30の存在比は、IgA-Seqでのバクテロイデテス門細菌の存在比と有意な相関関係を示し、バクテロイデテス細菌とIgA分子の結合に関与することが示唆された。IgA腎症患者の扁桃陰窩では、B細胞活性化因子であるAPRILおよびBAFFの発現が亢進しているが、IGHV3-30が高値を示す症例は、IGHV3-30低値を示す症例に比較してAPRILが高値を示し、またIGHV3-38が高値を示す症例は、IGHV3-38低値を示す症例に比較してBAFFが高値を示した。以上の結果からIgA腎症の扁桃陰窩では、T細胞非依存性IgA産生経路を通じて、特定の細菌群集に結合するIGHV3-30などの可変領域を有するIgA分子の産生が亢進していると考えられた。
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