研究課題
本研究では、膜性腎症の中でも責任抗原が不明な特発性膜性腎症について未知の責任抗原の解明を目指すと共に、Phospholipase A2 receptor(PLA2R)やThrombospondin 7A(THSD7A)を含む各責任抗原に対する自己抗体を指標にした病態理解および新規診断法の開発に取り組んでいる。平成30年度の進捗は以下の通りである。未知の責任抗原の同定では、まず、本研究の技術的核心となる患者血清と腎糸球体ライセートを用いた免疫沈降法の確立に取り組んだ。病勢が活発な膜性腎症患者はネフローゼ症候群に基づく高脂血症を呈しており、IgG精製時における脂質の混入がその後の免疫沈降法において非特異的な結合の発生に寄与して実験精度を大きく低下させた。そこで、血清の予備精製ならびに免疫沈降実験時の界面活性剤の種類と濃度を検討したことにより、非特異的な結合は著減し、例えばPLA2R関連膜性腎症患者の血清を用いた免疫沈降法では銀染色による観察でPLA2Rのみをプルダウンできるようになった。その後、本手法を用いて特発性膜性腎症患者の血清を用いて新規抗原のスクリーニング行程に進んだ。この改良された免疫沈降法は未知の責任抗原の探索に不可欠な技術であり、本研究の根幹をなす大変重要で意義深い技術的進歩である。一方、既知責任抗原(PLA2RおよびTHSD7A)に対する自己抗体の解析では、PLA2Rのエピトープの中でもCタイプレクチンドメイン8番(CTLD8)に対する自己抗体が独立した腎予後不良因子として欧米の先行研究にて同定されたため、本邦の患者でも確認するべくHEK293細胞を用いたCTLD8の組換えタンパク質の調製に取り組み、コンストラクトの調製まで完了した。
2: おおむね順調に進展している
研究開始以前の最大の技術的ボトルネックは、高脂血症を呈する患者血清中のIgGを用いて免疫沈降を行うと脂質に起因すると考えられる非特異的な結合が多くなり、実験精度が大きく低下することだった。しかし、研究開始初年度において技術的障害を克服し適切な手技を確立することができた。また、エピトープ解析についてもコンストラクトの調製および解析を計画通りに進めることができている。以上のことから、順調なスタートを切ることができた。
順調に親展しているため今後も当初の研究計画通りに進める。具体的には、特発性膜性腎症患者血清とポドサイトライセートを用いた免疫沈降実験の推進と、PLA2R関連膜性腎症患者およびTHSD7A関連膜性腎症患者の血清を用いたエピトープ解析を進める。
一連の免疫沈降実験に係る手技検討が当初の予想より小規模で済んだこと、ならびに、組換えタンパク質の調製方法について低コストな方法を採用できたことによって次年度使用額が生じた。その一方で、探索効率が上がったことにより当初計画よりもより多くの種類の組換えタンパク質を調製する必要が生じた。よって、次年度使用額は翌年の組換えタンパク質調製費用として使用する予定。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Internal Medicine
巻: 57 ページ: 2873-2877
doi: 10.2169/internalmedicine.0836-18.
Frontiers in Neurology
巻: 9 ページ: -
doi: 10.3389/fneur.2018.00997.