本研究では、膜性腎症の中でも責任抗原が不明な特発性膜性腎症について未知の責任抗原の解明を目指すと共に、Phospholipase A2 receptor(PLA2R)やThrombospondin 7A(THSD7A)を含む各責任抗原に対する自己抗体を指標にした病態理解および新規診断法の開発に取り組んでいる。研究4年目は、これまでの研究成果のとりまとめを行った。昨年度の研究進捗が遅れた原因となったCovid-19禍に対して患者血液検体の取扱方法を改良し感染リスクの低い手技を模索し対策を実行した。PLA2R関連膜性腎症に関しては自己抗体のエピトープ拡散の確認および臨床的病勢との関係、ならびに、抗体濃度と免疫的病勢および予後との関係について取得したデータに基づいて検討した結果、自己抗体濃度測定の有用性を明らかにできたとともにエピトープ拡散に基づいた診断は臨床で実践するには技術的に課題のあることを明らかにした。THSD7A関連膜性腎症に関してはPLA2R抗体と同様に膜性腎症の鑑別マーカーや病勢マーカーになりえることを明らかにできたが、自己抗体を定量する市販キットが無いことが普及を妨げる要因となっていた。日本人膜性腎症患者に特有の未知抗原の探索に関しては、有望な抗原候補蛋白質を取得できたが、バリデーションを完了することはできなかった。今後、抗原候補蛋白質を同定できれば自己抗体の測定系を確立してPLA2R関連膜性腎症と同様に新しい診断法を確立できる可能性が示唆された。以上の結果から、日本人一次性膜性腎症患者においても自己抗体の測定は膜性腎症の診療に有用な診断法であることを確認できた。
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